伊江村中央公民館
『ボーシクマー講座』

戦前の数十年、沖縄の3大産業のひとつだったアダン葉帽子は、今ではほぼ作られていない。アダン葉帽子編みの技術を残したいという伊江島の作り手の想いは、講師の糸数弓子さんを通じて伊江村民の間に受け継がれ始めた。「技術を受け取りたい」と語る伊江村教育委員会 社会教育指導員の屋嘉比りささんと、糸数さんにお話を伺った。

対象:伊江村民
目的:今は作られなくなってしまったアダン葉帽子の作り手を養成する。沖縄の文化を伝承する。
特徴1:「個人の想いが叶う島」ならではの公民館講座。
特徴2:なくなってしまった生活文化を公民館で改めて掘り起こし、未来につなげていく。
アピールポイント:一度は伊江島で再興されたアダン葉帽子も作られなくなって数十年。糸数さんを通して、ふたたび伊江村に帰ってきた。

村民の想いが叶う島

糸数弓子さんのアトリエがあった中城まで「アダン葉帽子の作り方を教えてほしい」と、伊江島から何度も訪ねてきた伊江村民がいた。伊江村の教育委員会にもかけあい、1年越しで、公民館事業として『ボーシクマー講座』を開催することになった。ボーシクマーとはうちなーぐちで「帽子を編む人」を意味する。社会教育指導員の屋嘉比さんは「伊江島は個人の想いが叶う島」とほほ笑む。伊江島の人口は、4600人ほど。みんなが親戚のような島だ。だからこそ、個人の声が拾われる。講座開催決定後、まだ告知が始まらないうちに噂を聞きつけた村民で、講座は埋まってしまった。アダン葉帽子に興味を持ち、糸数さんに連絡を取ろうとしていた矢先に、開講の知らせを聞きつけた受講生もいた。「アダン葉帽子編み」は、村民に求められている文化なのだろう。個人の想いを受け取った講座がこうして始まった。
糸数さんはアダン葉帽子の編み方を、伊江村の大城ナツさん(当時79歳)から習得した。大城さんは「伊江島で残したかったけど、やってくれる人がいない」と何度も糸数さんに語ったという。糸数さんは「伊江島で講座をすることが出来て、大城さんに恩返しできた」と語る。

戦前栄えたアダン葉帽子 糸数さんがアダン葉帽子に興味を持って調べていた時、ご自身の祖父がいつもかぶっていた帽子が、ボウシクマーだった祖母の手によって作られたものだと知った。
戦前、黒糖、泡盛に次ぐ産業として栄えたアダン葉帽子は、沖縄全島で編まれていた。アダンの葉をひと月乾かしてから、同じ太さにそろえ、細かく裂いた300本以上のアダン葉を使って、手で編み上げていく。ひとつ編むのに小さいもので3日、大きなものでは1週間ほどかかる。泣きながら寝ずに作らされたり、仕上がっても不出来だと買い値がつかなかったりと、当時のボーシクマーたちは、辛い思いをしてアダン葉帽子を作っていたという。
大勢がボーシクマーとして従事していたにもかかわらず今に残っていないのは、そういった背景があるからではないだろうか。

さまざまな出会い

アダン葉帽子について調べていた糸数さんは、伊江島で中原ミヨさんら数名によって再興されていたとの情報を得、その技術を受け継いだ大城さんに辿り着く。大城さんはボーシクマーとして従事してはおらず、技術のみを習得していた方だったため、本や資料を見て、思い出しながらの作業となった。半年におよぶ伊江島通いでちょっとした工夫やコツなどを学べたという。ボーシクマーの技術は、直接目で見て学ぶことがとても重要なのだ。大城さんの元には、糸数さん以前にも、習いに来た人たちはいたが、きちんと習得出来るまで続けられた人はいなかった。現在、大城さんも伊江島を離れてしまい、直接指導を受けることは出来ない。糸数さんが習得していなければ、なくなっていたかもしれない技術だ。

文化をつなぐ

今年度、『ボーシクマー講座』は2期にわたって開催され、1期15名、2期20名が受講した。社会教育指導員の屋嘉比さんは1期で受講し、2期目の講座では1期の受講生1名と共に技術的なサポーターとしても関わった。2期目が終了し間もないが、サポーターの2名を中心に、7、8名がアダン葉帽子編みの活動を続けている。
これからの課題は、先達から受け継いだ技術をどう残していけば良いかということ。趣味として広めることは出来ても、100年、200年先につなげていけるだけの技術を習得して、繋いでいくのは並大抵の事ではない。「‘‘これを残して’’とは簡単には言えないのでこれから考えていきたい。」と糸数さんは語る。
伊江村では今年度も『ボーシクマー講座』を開講する予定だ。新たな受講生を募って講座を行うか、あるいは昨年度の受講生の技術の向上を図るか、検討中だという。
「残していきたい」「島で、技術を受け取りたい」と糸数さんと屋嘉比さん。公民館事業を通じて地域に根差した生活文化が絶やされない事を期待したい。

伊江村中央公民館
〒905-0501 沖縄県国頭郡伊江村東江上75
TEL.0980-49-2334 / FAX.0980-49-2503

取材協力:屋嘉比りさ(伊江村教育委員会)
糸数弓子(アダン葉帽子編み講師)
文責:佐藤純子(NPO法人地域サポートわかさ)
取材日:2016年1月20日