調査結果2016

目 次

はじめに
公民館のユニークな事業に関する実態調査
考察
特定非営利活動法人地域サポートわかさ理事/那覇市若狭公民館館長 宮城潤

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はじめに

沖縄県には、公立公民館92 館、類似施設15 館、自治公民館963 館(平成27 年4 月沖縄県公民館連絡協議会調べ)があります。公民館は「市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もつて住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的」(社会教育法第20 条)とした社会教育施設として定められています。都市化が進み地域課題が多様化、複雑化する現代社会において、地域における身近な学習拠点として公民館の果たすべき役割はますます重要になっていると言えるでしょう。
また、公民館は地域の拠点施設であるため、その地域の特性や課題が表れる場でもあります。地域の状況に即した創造的で魅力的な公民館活動が展開できれば、地域活性や課題解決にも大きく寄与できるものと考えます。沖縄県内にあるそれぞれの公民館がより魅力的な活動を行うことによって、豊かな地域社会が実現できると信じています。

今年度、『公民館を活用した芸術文化発信事業』(平成27 年度沖縄文化活性化・創造発信支援事業)を公益財団法人沖縄県文化振興会の支援により実施してきました。
本事業では、県内の公立公民館及び類似施設を対象にした実態調査、公民館利用者を対象にしたヒアリング調査、また、調査内容やユニークな事業に関する情報を共有するためのウェブサイト作成を進めてきました。
公民館を対象に実施した実態調査では、回答団体の基礎情報、事業について、公民館についての3つの項目についてアンケートを行いました。その中でも事業については、特に「ユニークさ」に焦点を当てて調査を行い、「地域コミュニティを活性化する」「地域資源を発掘する」「地域課題や社会問題に取り組む」など、12 項目の視点から事業のユニークさを測っています。ここでは、公民館の運営及び事業実施における意識や課題について明らかにすることがねらいでした。
また、地域の声から表れる公民館のすがたは、今後の公民館のあり方を考えるうえで非常に重要な証言となります。ヒアリング調査では、那覇地区、南部地区、中部地区、北部地区、宮古地区の14 公民館を対象に、推薦いただいた23 の利用団体(サークル)のキーパーソンに、団体の活動内容とあわせ、活動に関わることになった経緯や想いなどの聞き取りを行いました。

本調査を実施するにあたり、全国公民館連合会の村上英己氏や沖縄県文化協会の仲田美加子氏、アートNPO リンクの樋口貞幸氏から、公民館をはじめとする社会教育活動や文化振興、地域づくり、市民活動等の観点からご意見いただくことで考察を深めることができました。

最後になりましたが、調査にご協力いただいた各公民館の皆さまをはじめ、沖縄県公民館連絡協議会、そして調査項目設計・検証をご担当いただいた渡邊太、大澤寅雄、樋口貞幸の各氏並びに関係各位に心より感謝申し上げます。
本調査から見えてくる公民館の実態と課題が、これからの公民館の発展について考える契機になることを願っています。

特定非営利活動法人地域サポートわかさ理事/那覇市若狭公民館館長
宮城 潤

 

 

公民館のユニークな事業に関する実態調査

調査主体
特定非営利活動法人地域サポートわかさ

調査目的
沖縄県内の全公立公民館を対象に、運営状況および活動実態に関する調査を行った。とくに、公民館が実施する「ユニークな事業」(芸術文化を活用したり、市民が主体的に参加する創造的な活動、社会・地域等における課題について取り組む活動など)の実施状況について明らかにするとともに、公民館の運営および事業実施における課題や意識について調査した。
なお、本調査の結果をふまえ、次年度以降の事業計画に活かすとともに、公民館同士の連携を強化し、芸術文化を核としたパイロット事業開発の足がかりとすることを目的とする。

調査概要
実施期間:2015年12月7日〜2016年1月25日(50日間)

調査方法:質問票(インターネット、FAX、持参)

調査対象:沖縄県内の公立公民館 94 館
*生涯学習施設等に移管しているものも一部含む。
*アンケート依頼の結果、閉館または公民館事業を実施していない、職員がいない施設が4 館あったため、調査対象から除外し
た。調査対象外としたのは、次の4 館。( )内はその理由。
久米島町立具志川公民館(施設変更。現、環境改善センター)
久米島町立仲里公民館(閉館)
八重瀬町中央公民館具志頭分館(環境改善センターに併設。職員の常駐なし)
玉城中央公民館 前川分館(閉館)

回答数:51 件(59 館) |回答率:62.8% |有効回答数:51 件 |有効回答率:100%
*金武町立公民館6 館(中央、中川地区、並里地区、金武地区、伊芸地区、屋嘉地区)は、金武町立中央公民館が
取りまとめて回答したため、アンケート件数は1 件とカウントした。ただし、回答率には6 館をカウントした。
*うるま市立公民館3 館(石川地区、勝連地区、与那城地区)は、勝連地区公民館が取りまとめて回答したため、
アンケート件数は1 件とカウントした。ただし、回答率には3 館をカウントした。
*浦添市立公民館2 館(中央公民館、分館)は、中央公民館が取りまとめて回答したため、アンケート件数は1 件
とカウントした。ただし、回答率には2 館をカウントした。

 

調査内容

I. 回答団体の基礎情報
II. 事業について(「ユニーク」な事業の目的、事業内容、対象者)
III. 公民館について(ネットワーク、関心事、運営上の課題、事業における課題)

 

留意点・補足・その他
・本調査は、特定非営利活動法人地域サポートわかさが公益財団法人沖縄県文化振興会の支援を受けて実施。質問票は、沖縄県公民館連絡協議会が取りまとめ、各教育委員会にメールにて配布した。分館、地区公民館によっては、個別にメールまたはFAX にて送付、一部は持参した。
・回答方法は、メール添付(ワードデータ)とインターネットフォーム、FAX にて受け付けた。
・調査項目設計と検証は、専門社会調査士の渡邊太(人間科学博士、大阪国際大学講師)を中心に、樋口貞幸(特定非営利活動法人アートNPO リンク事務局長)ならびに大澤寅雄(ニッセイ基礎研究所文化プロジェクト室准主任研究員)が担当し、本調査書は樋口が執筆した。また、本調査を踏まえた考察は、宮城潤(特定非営利活動法人地域サポートわかさ理事、那覇市若狭公民館館長)が担当した。

 

 

調査結果

Ⅰ 回答団体の属性
(1)職員数(館長を除く)
合計 213 人 |回答数51 |回答率100%
1 館あたりの職員数の平均値は4.18人、中央値は2人。

(2)非常勤職員数
合計 117人 |回答数42 |回答率82.4%
平均値は2.79人、中央値は1人。沖縄県内の公立公民館の職員のうち、半数以上を非常勤職員が占める。

1-2

(3)館長の勤務体制
常勤62.7% / 非常勤37.3% |回答数50 件|回答率98.0%
館長の6割は常勤である。

1-3

館長の勤務日数
回答数50 |回答率98.0%
週0 日= 2*(* うち1 件は「教育長が兼務しており、公民館にいないため」と注記あり)
週1 日= 1
週2 日= 1
週3 日= 9*(* うち3 件に「週3 日以上」と注記あり)
週4 日= 0
週5 日= 34
その他=3:「1 ヶ月15 日」「不定期」「51 週150 日」

 

 

Ⅱ 事業について

Q1 |貴公民館が主催する事業のうち、とくに「ユニーク」だと思われる事業を3つお答えください。
事業合計:回答総数106 |回答館数51 |回答率100%
(内訳)
・事業A:回答数51(ただし、うち2 件は「該当無し」「無し」と回答)
・事業B:回答数30(ただし、うち2 件は「該当無し」「特になし」と回答)
・事業C:回答数25(ただし、うち2 件は「該当無し」「特になし」と回答)

 

Q1-1 |上記事業の趣旨に該当ものを、下記の1から12についてお答えください。
1 地域のコミュニティを活性化する 回答数99 |加重平均3.01

Q1-1 1

2 地域資源を発掘する 回答数100 |加重平均2.68

Q1-1 2

3 地域課題や社会問題に取り組む 回答数100 |加重平均2.21

Q1-1 3

4 学習の成果を社会で活かせるようになる 回答数100 |加重平均3.02

Q1-1 4

5 多様な学びを提供する 回答数100 |加重平均3.20

Q1-1 5

6 利用者同士のつながりをつくる 回答数100 |加重平均3.43

Q1-1 6

7 公民館の存在意義が高まる 回答数100 |加重平均3.28

Q1-1 7

8 メディア戦略を重視する 回答数100 |加重平均1.46

Q1-1 8

9 関連機関と連携している 回答数100 |加重平均2.59

Q1-1 9

10 新たな価値観に触れる 回答数100 |加重平均2.89

Q1-1 10

11 芸術文化に触れる機会を拡大する 回答数99 |加重平均2.29

Q1-1 11

12 社会変革の一歩を踏み出せる 回答数99 |加重平均2.08

Q1-1 12

「ユニーク」だと思う3 事業の主旨の加重平均グラフ

P13

上図は、当てはまるを4点、どちらかといえば当てはまるを3点、どちらともいえないを2点、どちらかといえば当てはまらないを1点、当てはまらないを0点とし、事業A〜Cの加重平均をグラフにしたものである。
「ユニーク」な事業を通じて、公民館を利用するもの同士のつながりを促進し、多様な学びの場を提供し、新たな価値観に触れる機会づくりに取り組む公民館の姿が示された。また、それら事業は、公民館の地域での存在意義を高め、地域活性に寄与していると捉えている。
芸術文化を活用して社会変革を促すような取り組みや、地域課題や社会問題に関する取り組みも一定数みられる。なお、メディア戦略についてはいずれの事業も注力していないということが明らかとなった。
また、おおよそ半数(54.9%)の公民館が、2事業以上の「ユニーク」な事業に取り組んでいる。

 

Q1-3 |「ユニーク」だと思う事業では、どのような人に参加してもらいたいですか?(複数回答)
合計98
・事業A: 回答数47
・事業B: 回答数27
・事業C: 回答数23

P14

「ユニーク」だと思う事業に対して、どのような人に参加をしてもらいたいかを問うた。なお、事業ABC の優先順位は問うていない。
事業にもっとも参加してもらいたい人は、まちづくりや地域活性に関心をもつ人で66.3%あった。つぎに芸術文化に関心がある人(34.7%)、社会課題に関心がある人(32.7%)、市民活動・NPO 活動に関心がある人(29.6%) が約3 割ある。他方、お祭りに関心がある人(15.3%)、社会課題の当事者(14.3%)、経済に関心がある人(10.2%) は低い。
また、その他への回答も多い。その他回答は、次の通りである。
その他回答:
学生( 小・中・高):17
子どもを持つ親:7
地域住民・村民等:6
健康に関心がある方:2
地域で活動している方/おしゃれに関心のある人/自然体験、科学体験に関心がある人/
英語・読み聞かせに関心がある人/教育関係者/琉球史や文化を学びたい若者/
青少年健全育成や学校・地域連携に関心がある方/フラダンスを始めてみたい成人女性:1

 

Q1-4 |「ユニーク」だと思う事業では、どの世代の参加者がもっとも多かったですか?(単一回答)
回答数合計96
事業A | Q1-4 回答数46 / 事業B | Q1-4 回答数28 / 事業C | Q1-4 回答数22

Q1-4

Q1-5 |「ユニーク」だと思う事業には、どの世代にもっと参加者してもらいたいですか?(単一回答)
回答数合計100
事業A | Q1-5 回答数49 / 事業B | Q1-5 回答数28 / 事業C | Q1-5 回答数23

Q1-5

「ユニーク」だと思う事業の参加者について問うた。上の2 つの円グラフを比較してみたい(Q1-4、Q1-5)。Q1-4 図はどの世代の参加者が多かったかをあらわし、Q1-5図はどの世代にもっと参加してもらいたかったかをあらわしている。
実際の参加者の過半数は50歳以上であり、もっとも多い世代は60〜69歳である。つぎに多い世代が10歳未満と50〜59歳で、同率でならぶ。20〜29歳、30〜39歳、40〜49歳に至っては、その3世代をあわせても全体の20%に満たない。
一方、参加してもらいたかった世代は、世代は限定しないがもっとも多く36%。そして、10〜19歳が18%、30〜39歳が14%、20〜29歳が9%、40〜49歳が6%となった。ユニークな事業には、世代は限定しないものの、50歳以下の世代にもっと参加してもらいたいとい
う思いがあらわれている。
40〜49歳の参加者は、実際の参加および参加への期待ともに低いが、世代人口は最も多く*1、高齢層と若年層をつなぐ役割としても、この世代を巻き込めるかどうかが鍵となるかもしれない。

*1 |沖縄県「住民基本台帳年齢別人口(平成27年1月1日)市町村、男女、年齢5 歳階級別人口総数」をみると、40〜49歳が最も多く200,599人。ついで多い世代が30〜39歳の195,038人、60〜69歳の172,954人であった。なお5 歳階級別人口では、多い順に40〜44歳が107,700人、35〜39歳が101,460人、60〜64歳が101,111人であった。

 

 

Ⅲ 公民館について
Q2 |どのようなひとたちとネットワークをつくりたいですか?(複数回答)
回答数50
1 館あたりの回答数の平均値:4.86

3-Q2

公民館は、第一に、自治会・青年会と連携することで、地域コミュニティとの関係強化を図りたいと考えている。
そのつぎに、まちづくり関係、こども関係、学校関係、学生とのネットワークを希望している。この傾向は、Q1-3 ならびにQ1-5 とも関連がみられる。まちづくり・地域活性化に関心のある地域住民をバックアップするまちづくりの専門家の参画を必要とし、地域の次代を担う若い世代との接点づくりを望んでいる。この傾向を、これからの地域づくりを志向する《未来型》のネットワークと呼びたい。
そして、芸術家・クリエーター、防災関係、福祉関係、行政の他部署、研究者・科学者、NPO 関係がふたつめの層を形成している。これらはいずれも専門的なスキルを必要とする職種であることから、これを《専門家型》のネットワークと呼ぶことにする。
企業関係は少ないながらも環境団体とならび9 館がネットワークをつくりたいと回答している。企業関係とのネットワークを希望する意見は、都市部の公民館に多くみられた。
Q1-1 と同じく、メディア関係とのネットワークを求める回答は少ない。しかし、これからの地域を担う《未来型》ネットワークには、若年層の参加が求められている。若年層はメディアとの親和性が高いことはいうまでもない。若年層の公民館に対するアクセシビリティを向上させるためには、メディア関係とのネットワークづくりを無視することはできない。
法曹関係、人権関係は3館と少ない。
とくに必要としていないという回答も4 館からあった。とくに必要としていない理由まで聞いていないが、推測するに、現状すでに必要なネットワークを構築している場合と、ネットワークの構築と維持に避けるほど余裕がない場合が考えらえる。いずれにしても、いま以上にネットワークの拡張を必要としていない館もある。その一方、ほぼ全てにチェックしている館も少数ながらあり、幅広くネットワークを構築しようとする意欲が感じられる。
なお、1館あたりの回答数の平均をとると、4.86件であった。

Q3 |今後取り組んでみたい関心事はなんですか?(複数回答)
回答数50
1 館あたりの回答数の平均値:6.2

3-Q3

今後取り組んでみたい関心事のうちもっとも高いのは、人材育成であった。公民館の設置目的のひとつに人材育成が位置付けられていることからも、人材育成に対する関心が高いことは合点がいく。関心事として高く位置付けられている人材育成、まちづくりを、ここでは《未来型》の志向と名付けておきたい。
年中行事、健康への関心も極めて高いことがみてとれる。環境、防災、伝統芸能、くらしなどは、社会からの要請が反映された結果といえよう。これを、《維持型》の志向と名付ける。
ここでも政治、経済、人権への関心は低く、Q2の結果と共通する。いずれも取り扱いにくい主題ではあるが、人の営みにおいて避けられない主題でもあることから、なんらかの事業開発が望まれる。
そして、芸術文化と伝統芸能がともに19件と高い点をとくに指摘しておきたい。Q2で伺った求めるネットワークに芸術家・クリエーターが16件みられたように、芸術文化事業に対する要請は、つねに一定程度みられる。芸術文化、教育、科学技術といった社会に変化をもたらす事業を《クリエイティブ= イノベーティブ型》の志向と位置付けてみたい。
調査検証の域を超えるが、《クリエイティブ= イノベーティブ型》志向の重要性について指摘してみたい。公民館事業は、人材育成やまちづくりといった《未来型》志向と、健康、環境、防災などくらしにまつわる《維持型》志向のふたつの軸で構成されている。そのふたつの軸をつなぐ存在として《クリエイティブ= イノベーティブ型》志向を位置付けることは、あたらしい未来像を描くうえで極めて重要なことがわかる。
Q1-4、Q1-5の集計結果でも指摘したとおり、ユニークな事業の高齢者層の参加は充実しているが、もっと若い世代に参加を期待している現状が示されている。《維持型》志向を支える高齢者層に比べると、《未来型》志向の担い手として期待される若年層の参加が弱い。このことから、《維持型》志向の活動で培われたノウハウを《未来型》志向の活動に活用するためにも、両者をつなぐ何らかの仕掛けが必要である。

例えば、Q1の貴公民館が主催する事業のうち、とくに「ユニーク」だと思われる事業の記述に、「みつばちの生態については日常生活において貴重な体験であり、できたてのはちみつを採取して食すること。はちみつが出来るまでの作り手の苦労やキャリア(仕事)について学ぶ」、「ゲームしながら楽しく自然について学ぼう!自由研究や工作の宿題も役立つよ!をテーマに環境問題への気づきのきっかけをつくり、見方を変えて自然体験を学んでもらいました」といった事例が見られる。こうした事例では、芸術文化、教育、科学技術などを、日常のくらしや地域の環境に組み込むことで、《未来型》志向と《維持型》志向の両軸をつないでいる。公民館の人材育成に関する事業の中でも、ユニークかつ重要な役割を果たしていると思われる。
現代社会の課題に対してクリエイティブな思考を育み、イノベーションをひきおこすことでつぎなる未来を創造していく。公民館の事業に、《クリエイティブ= イノベーティブ型》の志向が求められている。

 

 

Q4 |貴公民館の運営ならびに事業上の困り事はなんですか?
Q4-1 |運営上の課題
回答数50

1. 専門的な知識をもった職員が不足している

3 Q4-1 1

2. 職員の異動により関係者とのネットワークの維持が困難になる

3 Q4-1 2

3. 公民館の活動が地方公共団体(自治体)に十分に理解されていない

3 Q4-1 3

4. 公民館の活動が市民に十分に理解されていない

3 Q4-1 4

5. 組織や人員の面で十分な体制を整えられない

3 Q4-1 5

6. 長期的なビジョンや目標、事業戦略を描けない

3 Q4-1 6

7. 公民館の運営に関するノウハウや経験が不足している

3 Q4-1 7

8. 職員間でビジョンや問題意識を共有できていない

3 Q4-1 8

9. その他(自由記述)
回答数5 件
・ 公民館サークルで長期にわたり活動するサークルの既得権と新規団体の利用
・ 公民館講座受講者・利用者の10 代~ 40 代の利用率向上
・ 若い人は働きざかりで公民館事業に参加できていない
・ 公民館運営を専門とする職員がいない
・ 利用者の偏り

運営上の課題の加重平均グラフ

P21

上図は、運営上の課題について、困っているを4点、どちらかといえば困っているを3点、どちらともいえないを2点、どちらかといえば困っていないを1点、困っていないを0点として加算し、その平均点をグラフ化したものである。2点のラインを超えると困り度合いが高くなり、下がると困り度合いは低いことを示している。
一見すると、どちらともいえないへの回答が多くみられるようだが、加重平均をとってみると、その傾向が微細ながら浮きあがってくる。
ここで明らかになるのは、つぎのとおりである。
公民館の自治体理解ならびに市民理解は一様に高いと捉えられており、課題に感じていない。また、職員数の平均は4 人強(中央値は2人)と少人数で運営していることから、職員間の情報や意思共有もなされている。
しかし、組織や人員の面で十分な体制を整えられず、専門的な知識や運営のノウハウをもった経験豊かな職員が不足し、長期ビジョンや事業の目標、その戦略を描きづらく、ネットワークの維持に困難をきたしている傾向がグラフから読み取れる。現状は維持できるとしても、中長期的なビジョンを立てて公民館活動を充実・発展させるには困難があることが伺われる。
また、その他回答をみると4 件は、利用者の固定化を課題にあげており、利用者の新規開拓ができていないことを困りごとと捉えている。ここもQ1-5との関連を指摘できよう。公民館の困りごとに、働き盛り世代や若年層といった《あらたな利用者》の開拓と、そのアクセシビリティの低さがあげられる。

 

Q4-2 |事業における課題
回答数50

1. 公民館利用者が固定化している

3 Q4-2 1

2. 主催事業参加者が固定化している

3 Q4-2 2

3. 主催事業の参加者に偏りがある

3 Q4-2 3

4. 専門家との接点がない

3 Q4-2 4

5. 地域のニーズが把握できていない

3 Q4-2 5

6. どのように広報したらよいかわからない

3 Q4-2 6

7. 事業の予算が十分ではない

3 Q4-2 7

8. 予算や経費が使いづらい

3 Q4-2 8

9. その他(自由記述)
回答数3件
・ 印刷製本代が写真プリントのみ使用なので使いづらい
・ 公民館の予算はなく、教育委員会で行っている事業を公民館事業としている
・ 事業企画・実施・評価(プロセス・展開)学習ニーズ及び必要な学習を踏まえて事業を企画・実施することで、サークル活動
や社会貢献活動へ移行・支援が円滑におこなえる

事業における課題の加重平均グラフ

P24

上図は、困っているを4点、どちらかといえば困っているを3点、どちらともいえないを2点、どちらかといえば困っていないを1点、困っていないを0点として加算し、その平均値をとったものである。
本質問でも、どちらともいえないへの回答が比較的多くみられた。
一見してわかるとおり、とりわけ顕著に現れたものは、広報に関して困っていないという回答である。また、運営上の課題とは異なり、事業においては、利用者の固定化や参加者の偏りについては、必ずしも課題として認識しているわけではないことがわかる。
これまでの設問で繰り返しみられたとおり、若年層や働き盛り世代の参加は少なく、該当する世代に対するアプローチもできていない。しかしながら、人口の少ない地域では、そもそも若年層が少ないこと、事業の参加者数でみると定員に達する事業も多いこと(別紙「ユニーク」な事業一覧参照)、事業として成功していると判断していること、固定利用者にとって公民館が居場所として機能しており公民館が担うべき役割を果たしていると捉えているためだと推測される。また、若年層に向けた新規事業を開発するには予算は限られており、事業開発に長けた専門的な知識と経験をもった職員が不足しているのは、すでに指摘の通りである。
とはいえ、ただ現状を維持していても、公民館自体の存在意義は薄れていく。本来ならば、地域課題、社会問題の複雑化にともない、ますます社会教育施設の役割の比重は高まるはずである。

地域の《未来》にむけ、現代社会に即応した教育、学術、文化といった《クリエイティブ》な事業をおこない、もって地域住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化をはかり、生活文化の振興と社会福祉の増進に寄与することは、公民館の使命である。

以上

 

 

考 察

本調査は、沖縄県公民館連絡協議会の協力を得て、各市町村教育委員会宛に公文と共に質問票をメールにて送付、各公立公民館に回答いただくようにした。その過程で、公立公民館だけではなく、類似施設にも質問票が配布されたところもあり、調査結果のなかには類似施設の回答が含まれていることをご了承いただきたい。
調査を進める過程で、質問票が公民館に未着のケースも複数あったほか、行政手続き上公立公民館として設置されているが、自治会が管理運営を行っているため公立公民館であるという自覚がなかった館などもあった。 自治体によって公民館のあり方や運営体制が大きく異なることが明らかになると同時に、インターネット環境の未整備や常勤職員の不在等の理由で情報伝達手段に課題を感じる場面も多くあった。
調査結果をみると、関心事として最も高いのは人材育成で、つくりたいネットワークもまちづくり関係、こども関係、学校関係、学生など、これからの地域を担う《未来型》ネットワークであることがわかる。一方、「ユニーク」だと思う事業の実際の参加者をみると過半数が50歳以上であり、20歳から49歳までの参加者は全体の20%にも満たなかった。高齢者層の参加は充実しているが、もっと若い世代にも参加を期待しているものの実際は参加が少ないという現状が示されている。この傾向は公民館活動全般にいえるだろう。
事業における課題では、施設利用者の固定化が最も高いが、広報に関しては困っていないとの回答結果が出ている。《未来型》志向の担い手として期待される若年層や働き盛り世代の参加が少ないにもかかわらず広報に関する課題意識が低い理由として、参加者数は定員に達することも多く、事業として成功していると判断しているということが考えられる。
しかし、「沖縄県 生涯学習に関する県民意識調査報告書」(平成27 年/沖縄県教育委員会)によると、過去一年間に趣味や学習活動で使った施設としては、公民館は20.0%で4位である。前回調査(平成20年)の18.5% と比べると1.5 ポイント上昇しているが、前々回調査(平成15年)の31.1%からは10.1ポイントも下がっている。つまり10 年単位で見ると利用者は大幅に減少していることがわかる。既存利用者にとって公民館は居場所になっており、担うべき機能を一定果たしていると捉えられるが、今後、若年層や働き盛り世代といった《あらたな利用者》の開拓ができなければ公民館自体の存在意義は薄れていくことになるだろう。
公民館をより開かれた生涯学習施設として機能させるには、このような現状を理解した上で、来て欲しい層と実際の参加者とのミスマッチについて自覚し、新規利用者を開拓するために周知広報の方法を見直すなど、アクセシビリティを高めるための工夫と努力が必要になってくる。
また、既存利用者の居場所としての機能を大切にしながらも新規利用者を受け入れるには、健康、環境、防災などくらしにまつわる《維持型》志向を支える高齢者層と人材育成やまちづくりといった《未来型》志向の担い手となる若年層をつなぐ何らかの仕掛けが必要となる。ユニークだと思う事業の内容を確認すると、人材育成に関する事業のなかに芸術文化、教育、科学技術などを日常のくらしや地域の環境に組み込むことで、《未来型》志向と《維持型》志向の両軸をつないでいる事例がみられた。複雑化する現代社会の課題に対応し、地域の《未来》を創造するには、クリエイティブな思考を育み、イノベーションをひきおこすことが必要となる。そのためにも公民館の事業には《クリエイティブ=イノベーティブ型》の志向が求められる。

さらに、回答のなかで最も気になったのが、運営上の課題ならびに事業についての課題ともに全項目において「どちらともいえない」がきわめて多かったことである。公民館は「実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もつて住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的」(社会教育法第22 条)とした施設であるため、活動内容は幅広い。特定の分野に対して取り組む行政の他部署・機関とは大きく異なるが、設置者の自治体から各公民館のビジョンを示されることはなく、活動の方向性は職員に委ねられているところが大きい。そのため課題を明確化しづらい状況が生まれていると推測できる。しかし、課題の把握ができなければ解決への糸口を見つけることはできない。地域の状況に即応した中長期ビジョンを立てて公民館活動を充実・発展させるためにも地域課題や社会課題の把握とノウハウやネットワークの蓄積が不可欠となるが、 組織や人員の面で十分な体制を整えられず、専門的知識をもった経験豊かな職員が不足している現状が浮かび上がってきた。
公民館の実態調査とあわせて行った利用者へのヒアリングでは、生きがいづくりや仲間づくりだけではなく、創意工夫を凝らしながら活動を継続することで様々な学びを得、それを地域や社会に還元するサークルの姿を確認することができた。那覇市小禄南公民館で活動する『創作エイサー団体那覇太鼓』の事例は、障がいを持つ子を受け入れたことをきっかけに社会の多様性を知り、ともに活動する中で互いに学び合うことにつながっている。サークルが《社会的包摂》を実現している好例だといえるだろう。
本調査を実施するなかで、現在公民館が果たしている役割や意義をあらためて確認できた。また同時に、様々な課題もみえてきた。今後さらに多様化、複雑化する地域社会において、公民館の役割はますます重要になってくる。職員の専門性とノウハウの蓄積といった課題はあるが、沖縄県内の各公民館がネットワークし、事業運営のノウハウやプログラムの共有ができれば、これらの課題改善につながり、公民館の本来的な機能を発揮できるようになるだろう。地域社会をより豊かなものにし、地域の未来を拓いていくためにも、公民館が果たすべき役割は大きく、公民館自身が創造的で魅力的な場になることが求められている。

特定非営利活動法人地域サポートわかさ理事
/那覇市若狭公民館館長
宮城 潤

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