沖縄在来種の大豆「青ヒグー」10粒をあたいぐゎー(家庭菜園)で育てることから始まった『あたいぐゎープロジェクト』。大豆から豆腐をつくるプロセスに多様な人が関わる仕組みを開発し、地域人材の活躍の場を創出。
対象:地域住民
目的:地域の伝統食材である豆腐づくりを通じて地域を再発見し、地元への愛着と住民同士のつながりを生み出す。
特徴1:地域住民への長期間に渡る丹念な聞き取りからはじまったプロジェクト。
特徴2:近隣小学校などとの連携、「子ども食堂」や「子どもの居場所事業」をはじめとする公民館の複数の事業が『あたいぐゎープロジェクト』を核にして連携するなど、多様な広がりを生み出している。
アピールポイント:豆腐づくりに必要な道具を開発したり、地域リーダーとして活躍する「すぐりむん(すぐれた人)」が活躍。
聞き取りから始まったプロジェクト
『あたいぐゎープロジェクト』は、2005年より実施された「繁多川見聞録」という講座をきっかけに動き出した。当時、繁多川地域に関する歴史的資料がほとんどなかったことから、繁多川自治会の協力のもと地域住民に、戦前から戦後の人々の暮らしについて話を聞き、地域の歴史を掘り起こす講座を企画した。聞き取りには、講師の波平エリ子氏(沖縄大学非常勤講師)を始め、授業の一環として大学生や中学生も関わった。数年にわたる調査の中で「繁多川豆腐」の存在に辿り着いた。
繁多川には、豆腐づくりに欠かせない水(湧き水)が豊富であったこと、商いの場として市場が近かったことなどもあり、豆腐づくりが地域に定着し、戦後の食糧難の時代にもハンタガーンチュたちの命をつないでいった。沖縄在来種の大豆「青ヒグ」「高アンダー」を原料とした「繁多川豆腐」は、切り口が光り美しく、口当たりもふわっとしていて、なおかつチャンプルー(炒め物)にしても崩れず、とても美味しかったという。
そこで、この地域の伝統食材を復活・継承させようと、在来大豆を探して県内各地をまわり、ついに県の農業試験場から貴重な「青ヒグ」の種を10粒譲り受けることができた。地域住民3人に種を託し、「あたいぐわぁー」(家庭菜園)で大豆を栽培してもらうことになった。そして現在、「青ヒグ」の種は離島をはじめ沖縄全域で希望者の方々に配布され、沖縄在来の大豆として知られるようになってきている。
地学連携しながら継続していくこと
『あたいぐゎープログジェクト』は、公民館のみならず繁多川近隣の識名・真地・上間の各公立小学校でも、地域の文化伝承や世代間交流を深める学びの機会として、大豆の栽培から豆腐づくりを実施するようになった。さらに、プロジェクトに関わっている地域の人たちや自治会の方が講師として授業等に参画し、種まき・収獲・脱穀・豆腐づくりまで指導し、コーディネート役を担っている。しかし、どんなにノウハウがあり優れた人材をコーディネーターとして派遣しても、それだけでは地域の活動として定着することはできない。あくまで地域住民が主体とならなくては継続することは難しく、校区内の自治会に参加を要請して学校と連携できるような関係性づくりが重要となる。地域住民が主役となって実施してこれたからこそ、『あたいぐゎープロジェクト』は10年以上も続けることができたのだろう。
さまざまな波及効果をもたらすプロジェクト
『あたいぐゎープロジェクト』を支える取り組みとして、『すぐりむん(すぐれた人)』がある。脱穀に必要な農具の復元や豆腐づくりの名人などといった地域の人材を発掘・活用する取り組みで、高齢者の活躍・世代間交流の場を提供することにつながっている。『あたいぐゎープロジェクト』を核として『すぐりむん』は、地域文化の伝承に留まらず、さらに大きな社会課題に取り組むようになった。その事例のひとつに「あたいぐゎー手作り市」や「子ども食堂」がある。東日本大震災のとき、『あたいぐゎープロジェクト』と『すぐりむん』の方々の声がけで、義援金集めを目的に「あたいぐゎー手作り市」が開催された。手作り市はその後毎年行われるようになり、“子どもの貧困”に課題を感じ始めた参加者たちの提案のもと、「子ども食堂」の支援へとシフトしていった。
『あたいぐゎープロジェクト』をきっかけに、“自分たちにできることは何か”と地域住民の主体的な動きが生まれ、その声を公民館が実現に向け連携したことが、こうした取り組みにつながったと言えるだろう。
聞き取りから始まった『あたいぐゎープロジェクト』は、いくつもの事業と連動し、さまざまな波及効果を及ぼしている。最近では、近隣のパン屋さんと提携も行うなど、ますます事業として広がりをみせている。“一丁一万円ブランド豆腐を目指す”という言葉からは、地域住民と築き上げてきた取り組みへの自信がにじみ出ているようにも思える。『あたいぐゎープロジェクト』は、繁多川公民館を代表する事業となっている。
那覇市繁多川公民館
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那覇市繁多川公民館ホームページ
取材協力:南信乃介(那覇市繁多川公民館館長)
久高将一(あたいぐゎープロジェクト会長、かりゆし友の会会長)
文責:平良亜弥(NPO法人地域サポートわかさ)
取材日:2016年11月8日