働くことやお金を稼ぐことといった経済や社会の仕組みについて学ぶ『夏休みお仕事体験講座』。地域の多様な機関と連携し、浦添市の特産品「桑」を活用した食育の要素も加わり内容にひろがりをみせている。
対象:小学生高学年から中学生
目的:子どもたちがお金との関わりについて学ぶとともに、地元食材(桑)と食べものに対する理解・関心につなげる。
特徴1:これまで実施されてきた事業の成果と課題をあらいだし、再構築して内容をブラッシュアップしている。
特徴2:様々な機関・団体との連携をはかり、多様な学びにつなげている。公民館サークルとのマッチングは、世代間交流の場、地域住民とのつながり、地域サポーターの育成にもつながっている。
アピールポイント:日常生活から学びにくい働くことに着目したプログラム。子どもたち自らお金を稼ぐ経験を通して「世の中」の仕組みに気づくと同時に、大人への課題提起にもなっている。
販売を通してお金との関わりを学ぶ
『夏休みお仕事体験講座』は、キャリア教育を目的に、平成24年から継続している講座だ。対象は、小学校高学年から中学生。毎年、夏休みの期間に行われる「分館子どもフェスタ」にあわせてお菓子の販売を行い、生活の中の身近な視点に引き付けて、経済の仕組みを学んでいく。
絵本「経済入門の巻 – レモンをお金にかえる法」を活用した座学では、レモンからレモネードをつくり、お店を切り盛りするという絵本のストーリーをもとに、材料の調達・加工・販売という経済活動の流れを学ぶ。その後、実際にグループに分かれて商品の開発・価格設定・販売・売上計算、最後にふりかえり会を行う。
今年度は、地元食材「桑」を活用することで、浦添の農産物や特産品への理解や関心につなげる食育の要素も加え、「桑」を使ったお菓子の開発も行った。商品の値段設定も子どもたち自身で行う。同世代の子に買ってほしい、という気持ちで付けられた価格は、原価割れしたとしても、子どもたちなりの価値観があらわれていると言える。売上金から材料費、電気代、水道代、借用料等、必要な経費を差し引き、利益を計算するのも全て子どもたち自身が行う。売り上げを出す過程の中で、公民館の役割、税金についても伝えている。
継続的に実施されているプログラムということで、地域の方々も毎年楽しみにしていて、子ども対象講座の目玉のひとつとなっている。
企画をブラッシュアップさせて次年度につなぐ
『夏休みお仕事体験講座』の担当職員たちは、次年度に向け引き継ぎをしながら、講座の成果と課題のあらいだしを毎回行っている。
これまで、経済の仕組みやお金を生み出す大変さ・楽しさ、お金に対する感謝の気持ちを体験することを目指して実施してきたが、商品がどれだけ売れたのか、分配される金額がいくらなのか、ということに執着してしまう場面もしばしば。もちろん、利益について考えることは大切だが、それがこの講座の目指すところではない。
今年度はプログラムの主旨はそのままに、「桑」を通して地元の農産物や特産品への理解や関心につなげることを新たな目的として追加した。そして、利益追求だけに陥らないよう、販売する商品の内容を見直した。
前年度まではどのグループも同じ商品を扱っていた(3グループに分かれ、クッキー、カップケーキなどを製作した)が、今年度はゼリー・ちんすこう・アイスクリームとグループごとに製作するお菓子の内容を変え、商品の差別化をはかった。商売をする上で、商品・サービス・接客など、さまざまな要素を考えていかなければならない。
きちんと経済観念、お金の感覚を身につけるために試行錯誤はしていても、課題は毎回出て来る。継続していく中で課題をどのように改善し、プログラムに反映させるのか、継続的に実施していくには企画のブラッシュアップは欠かせない。
協力団体やサークルのマッチング
『夏休みお仕事体験講座』では、公益社団法人青年海外協力協会沖縄事務所(JOKA)、浦添市シルバー人材センター、産業振興課(浦添市)、サークル、大学生など、講師やサポート含め、様々な機関・団体と連携している。
今年度は世界・沖縄の食文化や地元食材を通して食の大切さについて学ぶことを目的に、JOKAの職員やシルバー人材センターから講師を招いて講演を行った。アルゼンチンの沖縄移民の方たちが、ゴーヤーの種を大事に育てている話などは、移民、食料問題、食べ物の大切さや沖縄への郷土愛も感じることにつながった。
桑に関する講演や桑を使ったお菓子づくりの実習・商品開発では、浦添市シルバー人材センターに講師を依頼した他、公民館サークル「薬草サークル ヌチグスイ」や琉球大学の実習生にサポートをお願いした。公民館で活動しているサークルとのマッチングや大学生のサポートは、世代間交流や地域サポーターの養成、地域住民との交流ともつながっている。
大人社会の経済観念を考えるきっかけにも
普段は消費者として、店頭に並ぶ商品を購入する側の子どもたちが、お菓子づくりと販売を通して生産者・販売者の存在と役割について知り、お金の流れのメカニズムについて学んでいく。そして、そこに立ち会う担当職員たちも、世の中でお金はどのように動いているのか、生きたお金の使い方とはどういうことなのかについて、試行錯誤しながらこの講座に取り組んでいる様子が伺える。
子どもたちの食やお金に対する考え方というのは、大人社会のそれに影響を受けていることに、講座を通して気づかされる。講座で出てきた課題は、社会の仕組みにおける課題でもある。お金は価値基準のひとつではあるが、執着してしまわないように気をつけなければならない。お金はなぜ、必要なのか?お金とよりよく付き合いながらも、それぞれのスキルを交換し合って、助け合って生きていける社会とは?住民とともに、丁寧に考えていく場を公民館が提供する意味は多いにあるだろう。
浦添市立中央公民館
〒901-2501 沖縄県浦添市安波茶1丁目1−2
TEL.098-879-5503 / FAX.098-879-5530
取材協力:渡辺智子(社会教育指導員)
文責:平良亜弥(NPO法人地域サポートわかさ)
取材日:2016年11月18日