那覇市中央公民館
『真和志地域学Ⅰ・Ⅱ』

人口密度が高く、地域コミュニティの希薄化が進んでいる真和志地域をテーマに歴史の掘り下げと地域の誇りを育むことを目的に、真和志地域に関係のある人々を紹介することで人材活用に結びつけたプログラム。

対象:那覇市民
目的:真和志地域の歴史の変遷や文化について知り、地域の人材から生活の知恵や知識を学ぶ。地域への愛着と住民自治の再生を目指したプログラム。
特徴1:『真和志地域学Ⅰ』では、歴史の変遷という枠組みを入り口に、まちあるきで体現的な学びを経て、生活・文化という身近な学びへと深めていくことで、住民の地域に対する愛着を育んでいく。
特徴2:働き盛り世代も対象に、地元出身の人を巻き込み、多文化な真和志地域をひもとくことで、住民自治の意識を根付かせるきっかけづくりとして『真和志地域学Ⅱ』を企画。
アピールポイント:プログラムのテーマに地域学をもってくることで、さまざまなつながりが生まれる可能性がある。地域に住む人材に焦点を当てた切り口で、まちの新たな魅力を発見しようとする試み。

地域の変遷をたどり見えてくる地域への愛着

『真和志地域学』は「深く知りたい沖縄の歴史Ⅰ」として、琉球王朝の歴史と文化を学ぶことを目的に高齢者を対象に開講したことから始まる。「琉球王朝の歴史と文化」というテーマで、市民に参加を呼びかけたところ、80名もの参加者が集まり非常に好評だった。その後、真和志地区にポイントを絞って「深く知りたい沖縄の歴史Ⅱ」として、『真和志地域学』を実施。真和志地区は、人口10万人。人口密度は高いが、なかなか横のつながりが見えてこない。一体、どういう人が住み、なぜこの地域に住むようになったのか。『真和志地域学』では、このような素朴な疑問を解いていくことから始まった。

現在、真和志といわれるエリア(真和志支所管内)は、国道330号線より東側にあたる。旧真和志村には、新都心や安謝あたりまでの地域を含んでいたが、様々な変遷を経て現在の面積にまで縮小された。戦後、那覇の大半は接収され、一部を除き立ち入り禁止区となり、住民は収容所生活を強いられていた。その頃、居住できる区域は那覇でもほんの一部だったという。その中に真和志の畑や低地が居住区域として解放され、那覇港で働く作業員らが居住し始めた(みなと村)。さらに、帰住できない那覇の住民たちも真和志に住み始め、人口密集地となっていった。

歴史の変遷をたどる中で、参加者からさまざまな疑問や提案が出てくる。そうしたところから地域に関心を持ち始め、地域への愛着を育んでいくことにつながる。そして、真和志地域をめぐる散策は、得た知識を視覚や身体の感覚を通して染み入らせる意味を持つ時間になるのだろう。その後、“門中、トートーメー、拝所”など沖縄の生活と文化について学んでいく。『真和志地域学』は、歴史という大きな枠組みを知り、身近な生活をテーマに意識を引き付けていくようなプログラム構成となっている。

人材活用と住民自治の再生を目指して


『真和志地域学Ⅱ』は、対象を働き盛り世代にも広げ、4回の連続講座として開講。第1回目の真和志地域の変遷と人口集中について学ぶことから始まり、“住まい、医・食、交通”のテーマごとに真和志地域に関係のある講師を招いた。地域の人材紹介と身近なテーマから生活の中の課題解決へと結びつけることを目的にしている。

第2回目は、「住まいでつなぐ地域の未来」をテーマに、識名市営住宅を建設したアトリエ・ノア代表の本庄正之さんに講話いただいた。実は真和志地域は地理的・風水的に良い場所であることを知らない人も多い。真和志地域の良さを伝えつつ、マイホームを建てることを最終目標にするだけでなく、この地域に住み続けるための知識や知恵を学んでいく。

第3回目は、医・食をテーマに「食とその周辺にある健康」について、地域出身の琉球大学医学部付属病院 又吉哲太郎助教に講話いただいた。データをもとに、沖縄県の肥満が全国1位である現状(全国平均30.2% 沖縄県46.9%)、肥満対策の難しさ、食生活改善のための社会環境の整備など分かりやすく、食生活改善につながる内容であり、継続開催の要望が多くあった。

最終回は、「交通でまちづくり~人中心のまちづくりをめざして~」と題し、那覇市都市計画部長に講話いただいた。那覇市の交通の現状、外国都市のまちの事例(ブラジル、フランス、オランダ、ポートランド、ソウル)をスライドで紹介しながら、那覇市の昔の写真や現在実施している整備事業についても報告。街にとって大切なものを受講生の質問に答えながらの講義は満足も高かった。

地区管内の自治会長さんたちにも声をかけ


『真和志地域学Ⅱ』の受講生からのアンケートに共通していたのは、「地域だけでなく自分の生活、生き方を考える機会となった」との意見が多く寄せられたことであった。若い世代が将来の住まいや生活を考えることが、未来のまちづくりにつながっていく。そんな想いを込めて、講師を選びプログラムを組み立てた公民館の想いは、受講生にもきちんと届いたようだ。

しかし、ターゲット層を集めるのには苦労したそうだ。若い世代を集めることはどの公民館でも課題とするところで、この講座でもターゲット層がなかなか集らない。25歳から60代の参加者が集ったが、ターゲットの30代〜40代となるとやはり難しい。また、学習ニーズの高い内容(スキルアップ)の講座などは人気がありすぐに定員が埋まるが、「考える」ことをテーマにするとなぜか人は集らない。そこで、真和志地区管内の自治会長らに直接声をかけ、参加を促した。自分たちの地域がどのような変遷を経て、現在に至るのかを知ってもらうことで、地域コミュニティの活性につなげようというのだ。歴史からみえてくる地域の成り立ちや地域課題について考えることは、自分自身の課題にもつながっていく。身近な問題から引き付けて、課題を解決していくことで生活が豊かになっていくことを、講座を通して実感していく。社会の課題に目を向けるきっかけづくりを試行錯誤しながら行っている。

地域のエピソードを共有する時間


人と人とがつながり、イキイキとした暮らしを送ることは、安心安全なまち、そして地域コミュニティを活性化することにもつながっていく。自分自身の生活や住まいに対する新しい視点の発見を見出すきっかけになるよう、シリーズ講座として企画をしていることがインタビューを通して見えてきた。
地域が抱えている課題を住民とともに解決に取り組むことにつなげたい、そういった公民館職員の想いが『真和志地域学』には込められている。

戦後70年が経過して、真和志地域の建物もどんどん老朽化している現在。行政側からみる地域の課題と住民が自分ごととして捉えている課題は、必ずしも一致しない。そうした中、日々の講座・イベントで公民館を拠点に地域住民の視点を広げ、課題への意識づけをどのように促していくのかは簡単なことではない。それでも、講座の中で散策の時間は、参加者から聞こえてくる声を拾い上げる貴重な時間となっている。

戦後のウチナーンチュたちを支えた食材のひとつに豆腐がある。与儀の古い集落には井戸があり、以前は豆腐づくりも行われていたと言う。今でこそ「繁多川豆腐」は有名だが、それ以外にも各地で生活の糧として豆腐づくりが行われていたことは想像できる。しかし、こうした生活の営みの記憶は時間とともに忘れ去られてしまうことも少なくはない。
例えば、昔は竹細工の修繕屋さんが各家を回り、各家庭の籠などのお直しをしていたそうだ。しかも、軒先に植えられていた竹を使って修繕を行っていたという。こうしたエピソードは、想像力を広げてくれる。戦後に接収された地域とはいえ、さまざまなエピソードは現在でも掘り起こすことはできるはずだ。忘れ去られてしまった地域のエピソードを少しずつ共有し広げていくことで、まちに対するイメージは変わり、自然と愛着心は生まれてくるだろう。
幅広い世代が集る公民館だからこそ、こういったプログラムを続ける中で、参加者からの疑問や情報を集約していくことが可能なのだと思う。それは、新たな地域の魅力発見、さらには新しいまちとの関わりを考える機会につながるはずだ。

那覇市中央公民館
〒902-0064 沖縄県那覇市寄宮1丁目2-15
TEL.098-917-3442 / FAX.098-835-4707

取材協力:本庄和子(那覇市中央公民館/事業担当)
文責:平良亜弥(NPO法人地域サポートわかさ)
取材日:2016年12月5日