京都市立芸術大学教授の小山田徹氏、ふくおかNPOセンター代表の古賀桃子氏、若狭公民館館長・宮城潤氏による鼎談後編。
これからの公民館
宮城:公民館の「つどう・まなぶ・むすぶ」という3つの基本的な機能についてですが、「つどう」…というのは場所があります。「まなぶ」…公民館は講座をしています。「むすぶ」…この人とこの人を繋げました。
これはどこの公民館でもやっていることではあるけれども、ちゃんと連動してるかどうかは見えにくい。パーラー公民館で「つどう・まなぶ・むすぶ」と言う時に、「むすぶ」のなかに「実践する」っていう言葉をわざと入れてます。「つどう」人が集まってお互いが楽しくまなびあう。パーラー公民館を行っている公園のような場所には、強制力がないので楽しくないと来ない。楽しくまなびあいながら、楽しく地域課題解決のために自ら実践していく。いろんなものと繋がりながら実践していく。実践するまでを「むすぶ」として捉えることを意識してました。
小山田:パーラー公民館っていう名前がいいよね。「パーラー」っていうのいろんなものにつけたくなっちゃう(笑) なんかそんなことなんじゃないかなと思ってる。すでに地域で様々な活動をされてる方々が、例えばパーラー公民館の部屋バージョンとか、食堂バージョンとか、既にやられてるラジオ体操とか(笑)でパーラー公民館という名前を名乗っていただく。そういうのが連動していくと、それこそ大きな傘になる。気楽な形で名乗り合いするっていうのがもし出来たとしたら、1つの箱物が出来るよりめちゃくちゃ強力な「組織と意識」っていうのが出来るんちゃうかなって。この「パーラー公民館」というアイデアが出た瞬間に、多分この言葉でいいんじゃないかなって思ってた。
宮城:1月15日に行った「曙と公民館について(ワクワクしながら)考える会」(*)でも同じような話が出ました。週に2回パラソルを公園にたてるのは大変だけど、今すでに地域で動いてるものをパーラー公民館として、活動を展開することも出来るかなと。私のモチベーションとしては公民館の可能性というか新しい公民館をどうつくっていくかっていうのがあって、こういう場を設定しています。パーラー公民館をもし「やりたい」っていう人がいたら、「どうぞどうぞ」ということです。
今後どうしていくかと言うとこの取り組みの狙いとして2つあるんですね。1つは曙地域の「多様な世代とつながっていくような場作り、仕掛けをどうしていくか」「子供たちの安全安心でいられる居場所作り」という、曙地域の2つの大きな課題に対してのアプローチ。私たちはお手伝いはしますが主体は地域の皆さんなんだという意味あいを込めて、期間限定だと明確にして、すぐなくなるものの方がイメージしやすいと思い、あえてがっちりしていないものを想定してました。
もう1つが「公民館というもののあり方に対してのなげかけ」。公民館は戦後出来始め、時代によってその機能は変化しているが、高度経済成長期の公民館のあり方が今もなお続いているという状況。やはり新しい役割という機能が必要なんではないかっていうことの提案としてやっています。
小山田:公民館って税金で運営されてるけど予算は低いから個人の努力によってなんとか凌いでいるところがある。外で行われる活動に民間的な経済の流れが作れたらそれをコーディネートするのは公共の役割。その地域に割り当てられる予算だけで、その現場には来れないけど賛同してくれる人が増えたり、物品提供ができる人が関与してくれたり、そういうのがうまく回るようなシステムが作れたら、新しい感じが出てくるのになと思う。
古賀:私はそこにアートの力がすごく大きく関わってくると思っているんですね。パーラー公民館もそうですし、表現だったり場作りだったり。地域の中でもっとアートの力が活きる可能性なり必要性、ってすごくあると思う。アーティストの方々がさまざまなシーンに関わられ、みんなが心寄せやすくなるような楽しい仕掛けを、ますますプロデュースしてほしいなと思う。
宮城:アーティストっていうと胡散臭いとか、怪しいと思われてるかもしれませんが、その反面クリエイティビティがあったり、新しい視点を提供出来たりもするよ、という話なので怪しまないで受け入れてください。よろしくお願いします(笑)
来場者の視点
質問1:公民館の規模が大きくなってハードが出来てくると偶然性が起こる確率がだんだん低くなるような感じがする。パーラー公民館であったいいものがハードが出来るとなくなってしまうような懸念があるのだが、そういうことについて小山田先生から見て「共有空間」として残すべきものっていうのは何だと思いますか?
小山田:残すべきものはこの「気づき」なんじゃないかと思う。「パーラー公民館で出来たものがなくなるんじゃないか?」っていう感覚が一番大事なんじゃないかなと思ってます。完璧な制度ではないので箱物が出来たとしても不備なものが出来ちゃう可能性の方が高い。それをなんとかクリアしようと思ったら、そこにいる方がそういう意識を持ってるか持ってないかだけのような気がする。それを解消するための方法も多様にあるような気がする。実現し辛い事をどうやったら可能にできるかというのを考えられる人がいることが一番大事なような気がする。そういうアイデアを持った、過去に経験した記憶を持った方がすごい突破口のような気がしてるんです。だからパーラー公民館のこういう試みっていうのはそういう感覚と価値観を共有するためにあるんだと思うんですよ。そういう気づきをするためとかあれよかったよねっていうのを掘り起こすための企画。こういう体験をした子どもたちっていうのは許容量を持ってるので、次またテントとか屋台とかそういうものが来た時にはまた来る可能性があって、そういうものが世の中変えて行くんちゃうかなと思います。建物は出来た方がいいとは思うけど、出来ても出来なくても問題は一緒。今日語られる言葉と共にある気持ちってのがそれぞれの中にもし持ち帰っていただけるとしたら、なんかそういうものが次に繋ぐことかなと思ってます。
質問2:パーラー公民館で見出した可能性、気づいたことを、実在する公民館でもうまい具合に実現できるようなものがあるんじゃないかと思った。パーラー公民館で得たもので、実在する公民館で利用出来そうなものはありますか?
宮城:施設が大きくなったり、範囲が広くなったりすると、やはり色々抜け落ちていく可能性があるんですね。小さいコミュニティをどう大事にしていくかが大切だと改めて気づきました。曙地域では願寿会の皆さんが中心となる活動に子どもたちが加わっている。複数ある小さいコミュニティが、それぞれ生き生きとしていて、繋がっていくということが個人のセーフティーネットにも関わっていくんだろうなと動きながら感じた。人にはそれぞれいろんなアイデンティティがあるので、地域のコミュニティを「絆」って言うと(聞こえがいいけど見方を変えるとしがらみになるので)そこから抜けたい人が出てくる。そういう人たちに強要するのではなくて、その人が絆を感じることが出来るコミュニティが複数・多層にあった方が安心・安全でいられる。そういうところで言うと、小さいコミュニティをいかに活性化させるか、それを緩やかにどう繋いでいくかみたいなことが大事だなって思いました。施設のあるなしにかかわらず、公民館の役割としてのあり方を、このパーラー公民館を活用しながら改めて感じることが出来ました。違うエリアでも同じような姿勢で取り組めるかなと思いました。
質問3:気付く、そしてそれを繋げるということをおっしゃっていただきました。今日は異年齢の方がたくさんいらっしゃっている。これは点と線が結ばれて県の大きなものを揺り動かす指導者養成に繋がっていくと思う。先生方は本日刺激を与えてやる気を起こす雰囲気を作られた。本当に私は感動しました。沖縄がこれから生涯学習という範疇で未来に向かってやっていくためのアイディアをいただけたらと思います。リーダー養成をしながらどのようにして地域を動かし、市を動かし、それから県を揺れ動かすためにはどうしたらいいのか。先生方からアドバイスをお願いします。
小山田:喜びと嬉しさというのは人々を動かしていくビリヤードの玉。1人が弾んだら次も弾んじゃう。ある種のエネルギーが保持されて連続していく。だからいろんな世代が「喜ばしきもの」というのを一生懸命探す必要があるんですよ。しかもそれが他者と一緒で喜ばしきもの、自己充足のための喜ばしいもの。未来の子供のために動いたことがご自身でも喜ばしい、嬉しいっていう。なんかもうそれさえあれば誰か動いちゃうような気がするんですよ。どうすればいいのかは全くわかりませんが、その地域の子どもたちとか、顔が浮かぶ人々から始めていいと思う。とにかく「喜ばしきもの」という視線があることが、動かしていくんじゃないかなと思う。嬉しそうにしてたらあっという間に県とか国とか動いちゃいますよ。嬉しそうにしてたらその波及効果音はでかいんですよ。最近はもう SNS っていう名のいろんな情報が飛び交う世界があって「喜ばしきもの」はあっという間に拡散するんですよ。羨ましがったらこっちのもんです。
古賀:行政を動かすのは私はたやすいと思っている。従来的なやり方だけど、数の論理。議員さんを動かすのはそういう話になると思う。ただパーラー公民館がどんどん増えたとしたら、ちょっと質の部分が心配だなぁと思った。やらねばでやる人が出てきたり、なんとなくまわしてる人がでてきたり、当事者が喜びや楽しさを感じられるのかな?と想像しながら少し心配になりました。行政の職員さんは疲弊している人が多くて、なかなか新規事業をつくれないという状況があります。いち住民として職員さんにも参加していただいて、心底楽しさ味わっていただく。そういう職員さんを増やしていくことが一番現実的なのかな。時間はかかると思うんですが、まわり道で一番いいカタチかなと思いました。
子供たちには今、ナナメの関係がとても大切だと思う。縦でいうと親や先生、横だとお友達。心に葛藤を抱えがちな今の子どもたちの現状では、ナナメ目線で関われる地域の大学生だったり、ボランティアさんだったり、そういう存在がとても重要だという話を聞きます。また我々40歳以下の、地域と非常に疎遠になっていて会社や組織にいる時間が長い人たちこそ、このナナメの関係がすごく大事なのかなと思う。上司とか部下とか、あるいは家族の中でもストレスを感じる方も方もいらっしゃるなかで、地域の中でナナメの関係をつくっていくのは大事だなとここ数年思っていて、パーラー公民館はそれのヒントがたくさんある取り組みでそのナナメ関係づくりの目線で見ても今後続いていったらいいなと。続ける策を皆さんも、持ち寄って考えると尚いいと思いました。
宮城:この事業に取り組む際、はじめから想定していたのは終わったあとが勝負だということです。ここからがスタート!そのための仕掛けを最初から色々しているわけです。曙地域をこれからどうするのか、地域で自立した活動にしていくためにはどうすればいいのか、地域の皆さんに主体となって考えていただきたいと思っています。私たちは出来る限り寄り添ってしっかりサポートしたいと思っています。アイデアはいくつもあるけれども、言うとあまり良くないので控えています。 ここから動いていく。皆さんにも出来れば立ち会っていただき、アドバイスを頂いたり、お互いに情報共有したりしながら、それぞれの現場で更にもう一歩踏み出せるといいなと思っております。
以上
2018年1月21日 那覇市若狭公民館にて
鼎談:小山田徹(美術家)
古賀桃子(ふくおかNPOセンター代表)
宮城潤(NPO法人地域サポートわかさ理事/那覇市若狭公民館館長)
文責:佐藤純子(NPO法人地域サポートわかさ)