大阪市西成区で活動を続ける上田假奈代氏(NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)代表)とパーラー公民館を運営する宮城潤氏(那覇市若狭公民館館長)による対談後編。
ワンストップセンターとしての役割
宮城 釜ヶ崎のおじさんたちの様子を聞くと、相当厳しい状況もあるように思います。我々からはみえない、想像できないようなこともいっぱいありそう。
上田 そうですね、よくぞこの人生生きてこられました、という方に出会うこともあるし、本当に関わるのも難しい人たちもいます。ただ、釜ヶ崎というまちの懐の深さそのものに、いつも驚かされています。連携については、一枚岩である必要はなくて、何枚岩もあればいいと思っています。ウチでだめだった場合には、別の団体に関わってもらうとか。釜ヶ崎は支援の面で手厚い部分があると思いますが、福祉の制度が増えていても、その制度からこぼれ落ちる人たちがいます。ココルームは制度にアクセスしづらい人たちが来るところなんです。さらにこぼれた人がシェルターか野宿の人たちの支援している人たちのところへ行くのかなと思います。それと、若年層がココルームに流入してくるケースがあるかなという気はしています。出身地も理由もさまざまです。家出した人、追い出された人、DVから逃げて来た人、刑務所から出てきた人とか、そういった人たちがココルームに辿り着くようです。
近隣の店舗だったり、お寺から紹介されたというケースもありました。ココルームは何もできないんですけど、まず話を聞きます。だいたいは食べ物、眠る場所、お金、あるいは仕事。そういうことができる場所におつなぎします。喫茶店なので、その人が落ち着いたらまた顔を出してくれるんですよね。
宮城 どういった専門家や支援機関とつながっていますか?
上田 DV、薬物、医療、子ども支援関係、福祉、就労、弁護士など。一度、調査を受けたことがあったんですが、ほぼ全ての専門機関・団体等にチェックを入れました。そういったところは他にあまりないようです。釜ヶ崎には資源が本当にたくさんあります。
宮城 すごいですね、ワンストップセンターみたいになってるんですね。釜ヶ崎は課題が顕著に表れているのもあるから支援する方々も多くいらっしゃるんですね。ココルームのように人が集って話ができて、専門機関等へつなげられる機能どうすればとつくれる思いますか?
上田 毎日開いているというのは結構大きいと思います。ある日、バザーに「ベビーカーないですか?」って来た女性がいて、何か気になったので、その女性にもうちょっと突っ込んで話を聞いていくと諸事情あって大阪にいると言うんです。宿泊先と連絡先を教えてもらって、私は保育園に行って事情を話したんです。そしたら園長先生がすぐに西成区の子ども担当の課に連絡を取ってくれました。みんなが連携することについて理解していると感じました。
日常の活動の中でワークショップのカタチを開発
宮城 地域のお祭りって日常の生活の質を高めるためにハレの場があって、ケに戻ったときにそれが深まっていく状況をつくる意味があると思います。ココルームではどんなハレの場を設定していますか。
上田 地域のお祭りに参加したりお手伝いはしています。そこはちょっと丁寧にしないと、むしろ動きづらい。それと、釜ヶ崎芸術大学の成果発表会もハレの場ですね。ハレとケと両方必要で、ハレの後ちゃんとケに戻る。みんないるよねっていうことをもう一度確認しあうんですね。
私自身、詩をつくる手法もこうした活動の中で変わってきています。自分で考えてつくることから、今では人に話を聞いて詩をつくるということをしています。釜ヶ崎のおじさん、子ども、障がいをもっている人とか外国の方とか、いろんな人がおしゃべりをして、お互いにインタビューをして詩をつくります。集中力のある場をつくって、人の出会い方をつくっています。
ワークショップの手法なんかも活動の中で開発しています。パーラー公民館で『明日の地図よ』のアレンジ版として『あちゃ〜ぬ地図ゆ』というワークショップをしていただいたけど、それも同じ。地域をよく知る方に子どもたちがお話を聞きながら、大きな絵地図をつくっていく。ワークショップって、それ自体は1時間とか1時間半の短い枠なので洗練させられるんです。そこでの学びっていうのをもう一回日常の活動にバックするというか。そういう繰り返しをしています。
地域のためにうごける人をいかにしてつくるか
宮城 “地域”といったときに想像する地域って人によって違うと思うんですよ。同じエリアに住んでる人でも“地域”と言われたときにイメージする範囲は違っていて、とても曖昧な言葉だなと思っています。それと同じように、“地域コミュニティ”という話をしたときに、コミュニティを形成している人が誰なのかということを考えると、これもとても曖昧だと思うんです。一般的には自治会、町内会とかを想像すると思うんですけど、若狭公民館エリアは自治会加入率が15%くらいで、85%の人は非加入世帯です。“地域の人”といったときに15%だけに目を向けると、85%の人が抜け落ちるわけですが、85%をサイレントマジョリティというのもしっくりこない。実は、この地域は多数の孤立化している人たちが集っている場所だなと認識しています。そうなると、公民館が一定地域の住民のための施設とはいえ、アクセスしずらいものになると思うんです。相当無数に情報を発信して関わりをつくっていかないといけない。コミュニティが小さくてもいくつもある、一人のアイデンティティとしていくつもつながっている、という状態がセーフティーネットになるんだろうと感じています。
そういう場をどうつくっていけるか、仕掛けられるかなということを今考えているところです。
上田 あちこち出かけられるかと言ったらそうはいきません。なので、行政の人が地域に入って顔をつなげてくれたらと思います。どんな人がいるかを把握してもらって、必要なときには誰か紹介してもらうとかですね。大阪は地域活動協議会(*)といって町会の仕組みが変わりつつあります。もちろん地域によって機能しているところとしてないところもありますが、結局、顔が見える人たちがいっぱい増えることが大事だと思います。
セーフティネットと居場所が複数必要
宮城 ココルームだけでは、対応が難しいケースも多いと思います。スタッフが假奈代さんと同じように対応できるとも限らないと思うんですが、どうされていますか。
上田 基本的にはスタッフに任せている状況ですが、中には危険な関係が生まれたりすることもあります。この場所を継続していく上で、切らなきゃいけない人は切るしかない、ということがありました。来るなとは言いませんが、また落ち着いたら来てねという風に。その声が届いたかどうかはわかりません。
居場所というのはいくつもあった方がいいんです。支援側がやりがちなのは、うちにだけ来てほしいということですが、それは大きな間違いで、いろんなところに顔を出してくれている方がいいんです。行政のセーフティーネットと、居場所としてのコミュニティが何層にもあって、お互いに情報を共有することもケアのひとつだと思います。
宮城 スタッフとの情報共有や問題意識の共有は丁寧にしないといけないと思いつつも、後手にまわってしまうこともあります。那覇市の場合、1館あたりのエリアが広すぎて無理があります。その状況の中で何ができるかはつねに模索しています。パーラー公民館での試みは、そのひとつ。そこで得られたヒントやアイディアを既存の公民館に再インストールできないかなと思っています。
素人のプロ
上田 自分のことを “素人のプロ”と呼んでいます。私は何の資格も持っていません。いろんな人の話をただ聞くだけなんです。聞くっていうこと自体がひとつ大事だと思っています。自分の困りごとや問題が明確に分かっている人も中にはいますが、ほとんどの人が分かっていないんです。話しながら整理されるところもあると思うので、自分の価値基準をなるべく当てはめないように聞きます。タイミングをみて必要な応答をしていくことが大事だろうなと思っています。
宮城 私が思っているところとも重なると思います。公民館って何かに特化したことはできないんだけれども、だからこそいろんなものが受け入れられるところがある。私自身も専門性はないけど、だからこそできることはないかなってずっと考えています。
上田 ときには自分の中につらさ残ってしまうこともあります。相当大変な経験をされている方もいらっしゃるので。そうした場合は、まわりにいるスタッフや、その場に居あわせた人たちが聞き役をすればいいんじゃないかな。決して一人で抱えたままにしない。さらに自分の倫理観にそぐわないような話を聞いたときは、人の生き方であるということを自分の中でもう一度確認する必要があると思います。他人の人生を代わりに生きることはできませんから。
まちにあった公民館的機能
宮城 お話聞いていて、公民館的だとは思いつつも、実際に公民館でやるにはハードルが高いなと思ったりするところはあります。でも、ココルームはいろんなことを実現している。上田さんはどういうモチベーションで、何がきっかけでこういった活動をしているんでしょうか。
上田 それは私が詩人で、どうやって自分が生き延びるかと考えたときに、自分で仕事をつくるしかなかったからです。人の通った道を歩くのはどうも苦手。西成にアートNPOなんてなかったんですね。だったらやれることもあるかしら?と思って。モデルがない分やりたい放題できたのかもしれません。
だいたい未来は未確定。でも、私の場合は、“私に必要なことば”を見つけられたら進めるんです。それは使い古されたことばでもいいんだけど、そこに向かうための呪文のようなことばを自分で見つけるんですね。例えば、詩人を仕事にしようと思ったときにすごい不安で、悩みましたが、最終的に見つけたことばが「私が詩人を仕事にしようとして誰に迷惑がかかるかしら、誰にもかからないよ」でした。やってみて失敗したら「ごめん」って言えばいいんだって。
商店街のパン屋さんとか古本屋さんとか、それぞれがちっちゃな公民館的機能を果たしているんじゃないかなって思うことがあります。野宿の人をすごい嫌がる人がいる一方で、「倒れるんやったらウチの前で倒れぇや!」って言うような雑貨屋のおばちゃんがいたり。そういう人はたぶん、いろんな相談にのってたんだと思うんですよね。
宮城 公民館の利用者は年配の方が多いんですが、時間的にも経済力的にも割とゆとりのある方が多いです。でも、ちょっとまちを歩いてみると、なかなかそういう状況にない人もいると肌感覚で感じます。我々は幅広く目を向ける必要があると問題意識はあっても、実際情報や活動を届けられるかというとなかなかできなくてもどかしい。公民館という地域拠点として、困ったことがあったら相談に来て良いよ、相談にのりますよという姿勢を示し続ける必要はあると感じています。ココルームでの大変さと、こちらが思うそれとは違うとは思いますが、お話しを伺って我々にはできることがもっとあるなと気持ちを新たにすることができました。
今日はどうもありがとうございました。
Tolk ココルーム 上田假奈代 × 若狭公民館 宮城潤
*地域活動協議会 おおむね小学校区を範囲として、地域の既存団体に、若い世代やマンション住民など、これまで地域活動にかかわりの薄かった方々も交えて、より幅広い人々や地域において活動している企業やNPOなども参画した自立的な地域運営の仕組みのこと。
NPO法人 こえとことばとこころの部屋cocoroom
〒557-0002
大阪府大阪市西成区太子2丁目3-3
TEL&FAX 06-6636-1612
営業時間 10:00〜21:00
http://cocoroom.org/
パーラー公民館
企画:NPO法人地域サポートわかさ
設計・監修:小山田徹
制作:High Times うえのいだ
http://cs-wakasa.com/kouminkan/project/parlor.html
支援:沖縄県、公益財団法人沖縄県文化振興会
「平成29年度沖縄文化芸術を支える環境形成推進事業」