NPO法人地域サポートわかさは、『移動式屋台公民館を活用した地域住民主体の「つどう・まなぶ・むすぶ」創造拠点創出事業』を実施、公民館が生活圏内にない那覇市曙地域の住民の要望を受け、2017年8月〜12月までの期間限定で移動式の“パーラー公民館”を展開してきました。パーラー公民館は、黒板テーブルにパラソルのついた簡素なもので、スタッフが地域住民とおしゃべりしたり、月に1度アートワークショップを実施しています。
本事業では、『公民館のあたらしいカタチ』と題し、その可能性について考えるべく、大阪市西成区で活動を続ける上田假奈代氏(NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)代表)とパーラー公民館を運営する宮城潤氏(那覇市若狭公民館館長)による対談を行いました。
宮城潤(以下、宮城) 私が公民館に勤めるようになって、12年。それまでは、公民館のことを全然知りませんでした。公民館に勤めたことではじめて公民館の魅力とその可能性に気づきました。一方で、その可能性がひらかれていない、活かしきれていない、もっといろんなことができるんじゃないかということも感じました。若狭公民館では、いろいろな事業に取り組んでいますが、もっと公民館の可能性の幅をひろげていくために、公民館の「機能」そのものに着目してはどうかと考えるようになりました。
そこで今回、ココルームの活動が私たちに示唆を与えてくれるのではないかと思って、上田假奈代さんにお越しいただきました。ココルームの活動とあわせて、もう少し深い所でその想いなどもお聞きできたらなと思った次第です。
浪速区から釜ヶ崎へ カマン!メディアセンター
上田假奈代(以下、上田) 私自身は大阪に縁もゆかりもありませんでしたが、15年前の2002年にスタートした大阪市の『現代芸術拠点形成事業』がきっかけで浪速区にあったフェスティバルゲートという商業施設の空き店舗を活動拠点にすることになりました。そこは中華料理屋だったので、キッチンやカウンター、製氷機なんかもあったんです。それで、喫茶店にしたら、アート好き・アート関係者だけではなくて、いろんな人がお茶しに来てくれるのではないかと思って“喫茶店のフリ”を始めます。
大阪市との当初の約束では、この事業は10年間継続するということでしたが、5年目になって事業が終了することになり、そこを離れることになりました。最後の2年間は、社会との関わりや文化行政のありよう、についてかなりシビアに考えた期間でもありました。
移った先は隣町。釜ヶ崎(*)と呼ばれるエリアのはじっこにある商店街でココルームを再開、あいかわらず喫茶店のフリを続けます。2008年1月には真向かいに『カマン!メディアセンター』をつくりました。テレビのモニターを一つ置いて、リクエストのあったネット動画なんかを流しておいて、おしゃべりがしたくなる状況をつくりました。そういう状況を“メディア”と呼ぼうと考えたわけです。助成金が切れたこともあり、活動費をつくるためにバザー会場にもしちゃいました。
高齢化と釜ヶ崎芸術大学の誕生~学び合える大学みたいなまち~
宮城 ココルームに興味をもったきっかけのひとつに、『釜ヶ崎芸術大学』があります。その名前にも惹かれます。
上田 『釜ヶ崎芸術大学』を始めたのは2011年。釜ヶ崎はどんどん高齢化していて、その波はものすごい早さで進んでいます。歩行器を使って歩く人も増えて、商店街を歩く人の音が変わってきたんです。私たちがここで待っていてもしようがないので、まちに出る取り組みを始めたんです。
ちょうどこの頃、“釜ヶ崎”という名前が消されそうな雰囲気がありました。最寄り駅の名前である“新今宮”という言い方をするようになってきたんです。それで、敢えて『釜ヶ崎芸術大学』と名付けることにしました。釜ヶ崎自体が“学び合えるまち”という意味も込めて。現在では一流の先生を招いて、年間100講座近くも取り組んでいます。狂言、コンテンポラリーダンス、合唱、詩、ガムラン、お笑いなどのワークショップや講座を開講しています。
地域の相談が持ち込まれるゲストハウス
宮城 そんなにたくさんの講座があったんですか。釜ヶ崎のまちの変容や高齢化とココルームの活動とがリンクしているということなんですね。
上田 実は、まちの変化にともなってココルームの経営はかなりマズくなり、危機感をもっていました。そこで、少し南に引っ越しをしてゲストハウスを始めることにしました。1階にはカフェと庭を配して、地域の人やおじさんたち、旅人、外国の人、みんなが出会える場としてつくりました。3階建ての35ベット、アーティストの森村泰昌さんがプロデュースした部屋もあるんですよ。釜ヶ崎のおじさんの作品を飾ったり、谷川俊太郎さんに詩を書いてもらって泊まった人はその詩の続きを書いていく部屋も。おじさんも外国の人もみんなでまかないご飯を食べ、庭では保育園児が遊んでいたり、腕を振るっておじさんたちが何かつくったり。そういう過剰な空間です。
ココルームでは、来てくれた人みんなでまかないご飯を一緒に食べたり、ワークショップをしたり、日常の延長のようなささやかな場づくりをしています。それだけで、なぜかすごく“相談が持ち込まれる場所”になっちゃうんですね。そして、喫茶店なのにお金を払わないでずっといる人、トラブルを起こす人もいっぱい来ます。暴言を吐く人は、おそらくご自身がそういうことをされてきた経験がある方なんですよね。その人自身は、本当はみんなと仲良くしたいと思っているけど、なかなかそうできない。身の安全を確保しつつ、その人たちとどう関係を築いていくかということに悩みながらも、のらりくらりとこの場をつくっています。
私たちとしては、出会い、そしてそれをお互いに表現し合えるような場をつくって、自分の存在を誰かに託していく。種をつないでいくような活動をしていきたいと考えています。
公民館らしい“つどう場”の仕掛けづくり
宮城 今の話を聞いて公民館的だなと思ったポイントがあります。人が集い、そこで出てきた声に耳を傾けて、その声に寄り添いながら対応していくと、そこに学びの場が生まれてくる。その学びが生き甲斐になったり、人とつながったり、場合によってはセーフティーネットにつながっていく。本来公民館はこうあるべきではないかなと思っていて、公民館的な視点でみると、そういう要素がギュッとつまってるな、すごいなって思いました。
ココルームに来て飲食するだけではなくて相談を持ち込むということはなにか仕掛けがされているからでしょうか? コミュニティは興味関心があって形成されるものだと思います。コミュニティを横断するような場をつくる配慮お聞かせいただけますか。
上田 一番は“ご飯を一緒に食べる”ことです。みんなで食べると、こちらもその間いろいろ話しかけますよね。相手もこの時間一緒に過ごさなくちゃいけないっていう諦めなのか、気が緩むのか、知らない人だから話しやすいのか、興味のあることや悩みごとを話してくれるんですね。
その人自身は一人で悩んでいることかもしれないけど、個人の問題だけではなくて社会の問題だったりすることもあると思うわけです。社会問題として政策提言するということもあるかもしれないけど、私自身はそんな難しいことできないし、とにかく一人で悩んでいるのはしんどいから、集ってみんなでしゃべってみようと。おしゃべりの中から考えていくことで事業につながっていっているんです。あとは、地域にさまざまな専門家がいるので、つなぐこともしています。
それと、ある時期スタッフがみんな辞めちゃって、人手が足りない時期がありました。そのとき、「ココルームでの過ごし方」と大きな紙に書いて “ここは参加型カフェです。よかったら手伝って下さい。”って貼り出したんです。読んだ方は「手伝いましょうか」って言って手伝ってくださって、ついついしゃべるんですよね。
宮城 そういうところが公民館的だなって思います。イベントとかすると、完全に場を整えてお客さんとして気持ちよく帰すというのを何となくやってしまいがちなんですが、公民館というのはお互いに関わり合いながら出来事をつくっていくという理念があります。公民館は“メダカの学校”と言われるように、誰が先生か生徒か分からない。講師対生徒の関係ではなく、お互いに学び合う、お互いが先生になり得る、立場も逆転して出会える、関われる場をつくるというのが公民館だと思います。
上田 ココルームでは、スタッフがいないという状況をさらけ出しちゃったわけです。それは、半ば開き直りに近く、自分の弱さを見せるような。でも、私としてはそっちの方がしっくり来ています。何でもお金を払って、消費者の立場で高見に立って生きていくようなことはしたくないと思っています。なるべく主体的に関わってもらうためには自分ができないことは、ちゃんと他の人に助けてもらうとか、自分自身をひらいていくことが大事なんだろうなって思うようになったんですね。そしたら、私たちがサービスを提供する側ではなくて一緒につくっていく場ができるんじゃないかって思ったんです。
宮城 弱みもさらけ出していく、本当にそうだなと思います。お互いが完璧であろうとすればするほど、みんなしんどくなります。公民館に勤めて社会教育的な考え方を持つようになって、お互いがどう譲り合える、共生し合える、弱いところも含めて得意なところも折り合いをつけることがとても重要だなと思うようになりました。
喫茶店のフリだけど喫茶店だけをしているワケではない。
上田 喫茶店のフリとあわせて、相変わらず店の前で“バザー”をやっているんです。ゲストハウスとカフェなのに、バザーをやっていると見た目が悪いんですよ。喫茶店か何か分かんなくなっちゃうし、お客さんも減るかもしれないんだけど。そういうのを買うのは困窮している人だから顔がつながるんですね。だから、本当に困窮者支援を考えるんだったら、100円コンビニとか安いスーパーとかいいなと思いますよ。でも、スタッフは、わざわざ50円のために出てきてやり取りするので、そりゃあ手間です。おばさんに50円の商品を3つで100円に値切られた上に、次の日「気に入らなかったから1個返すから50円返して」って(笑)。バザーでは、そんなやり取りをしています。
宮城 見栄えのいい喫茶店ではないからこそ入りやすい空気もあるかもしれませんね。いろんなかかわり方を工夫していますよね。DVの問題では、加害をしてしまう男性に対するプログラムを提供する人を講師に招いたりしていますよね。ココルームに行くと、いろんな支援情報やイベント情報に出合えるし、それに気付かせる工夫をされてるんじゃないかなと思います。喫茶店のフリはしているけど、喫茶店だけをやっているワケではないなと。
Tolk ココルーム 上田假奈代 × 若狭公民館 宮城潤
*釜ヶ崎 大阪府大阪市西成区の北部、JR 新今宮駅の南側に位置する簡易宿所・寄せ場が集中する地区の通称。愛隣(あいりん)地区とも呼ばれる。近年はバックパッカーの宿泊地としても人気を集めている。1960年代から寄場として機能し、1970年の大阪万博の年は、労働者の数が3~4万人はくだらなかったという。現在の人口は約2万5千人。人口密度は日本一。一世帯は1.14人。地域内の男性率は85%で、そのほとんどが独身男性。現在の日雇い労働者の数は1,500人ほど。生活保護対象者は最近までは多くて1万人程度だったが、現在では9千人を切り減少している。日雇い労働者数や路上生活者の減少の理由として、高齢化が進み、死亡や生活保護にあがったことがあげられる。
NPO法人 こえとことばとこころの部屋cocoroom
〒557-0002
大阪府大阪市西成区太子2丁目3-3
TEL&FAX 06-6636-1612
営業時間 10:00〜21:00
http://cocoroom.org/
パーラー公民館
企画:NPO法人地域サポートわかさ
設計・監修:小山田徹
制作:High Times うえのいだ
http://cs-wakasa.com/kouminkan/project/parlor.html
支援:沖縄県、公益財団法人沖縄県文化振興会
「平成29年度沖縄文化芸術を支える環境形成推進事業」