座談会
公民館のいままでとこれから

座談会
「公民館のいままでとこれから
〜利用者インタビューからみえてきた、公民館のすがた」

『公民館を拠点とした芸術文化発信事業』では、沖縄県内の公民館を対象としたアンケート調査にくわえ、サークル等で公民館を利用する利用者にインタビューを実施しました。利用者インタビューを通して、地域における公民館の存在感とその役割が浮かび上がってきます。
インタビュー調査を担当した平良亜弥と鳥越一枝、そして本事業の実施主体であるNPO法人地域サポートわかさ理事の宮城潤、公益社団法人全国公民館連合会事務局次長で機関紙『月刊公民館』の編集人を勤める村上英己を交えた四者による座談会を開きました。
本座談会では、利用者の目からみた公民館像をもとに、これからの公民館のあり方について対話を重ねました。

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利用者インタビューにみる公民館の存在感

平良亜弥(以下、平良):沖縄本島の北部、中部、南部、那覇地区、そして宮古地区の14の公民館とそこを利用している24の団体にインタビューをしました。全体的にはシニアの利用者の方が多いのですが、20代30代の方にもお話を伺うことができました。みなさんのサークル活動に対する想いを聞けたことは貴重な経験になりました。

鳥越一枝(以下、鳥越):サークルは、各公民館から推薦してもらいました。公民館や自治体の文化事業としてスタートした取り組みがサークル立ち上げの契機になっているものが半分、自主的に立ち上げたものが半分ぐらいです。
どのサークルも、活動や郷土への強い情熱が感じられましたし、自分たちのやっていることが地域を活性化していくことにつながっているという思いをもって活動しておられることがわかりました。

平良:『エヴァダンシア与儀』というバトントワリング・ダンスのサークルは、壺屋小学校の放課後こども教室に通っていた子どもたちとその保護者が中心となって、那覇市中央公民館にサークルを立ち上げました。壺屋という都心部にあって、児童数が少なく小学校に運動部が少ない。そこで、保護者と子どもたちがサークル活動を始めました。児童数の減少によって学校で部活動ができなくなるということは各地で起こっていると思いますが、公民館のサークル活動が学校でできない部活動の役割も担うようになっているのかもしれません。

鳥越:今帰仁村中央公民館で長年活動している『なきじん民踊風車』の諸喜田スエ子さんのお話には歴史の重みが感じられました。昭和47年にあった復帰記念沖縄特別国民体育大会「若夏国体」のとき婦人会に集団演舞の要請があり、各村落からメンバーを募って参加したそうです。40年近く活動してきましたが、次のリーダー育成に取り組んでいます。次世代というのは50歳代です。こういった活動をやっていく地域の人が増えることが地域を豊かにしていくという信念が彼女の活動を支えていました。

村上英己(以下、村上):インタビューを読んで、それぞれのサークルが公民館に対する思い入れをもって活動しているということがよくわかりました。公民館は安く使えるとか、利便性がいいといった実利的な面もあるでしょうが、公的な施設だということの安心感もあると思います。公民館側からの協力や情報提供といったことがサークル活動の継続や発展にも影響すると思います。表現したい、誰かにみてもらいたいということがモチベーションになりますし、発表の機会があることもサークル継続の大きな理由だと思います。

平良:北中城村立中央公民館で活動するサークル『ストリートダンスWINGS』代表の島崎琴羽さんにお話を伺ったところ、公民館まつりでの発表機会だけではなく生涯学習課が他のイベントを紹介してくれて、子どもたちのダンスを地域の方々に見てもらう機会が増え、子どもたちのやる気やレベルアップにつながっているとおっしゃっていました。お話を伺うなかで、公民館と利用者との協力体制が重要だと感じました。

鳥越:浦添市中央公民館で活動している『浦添ゆいゆいキッズシアター』は、浦添市の文化事業としてスタートしました。演劇をやることもさることながら、人材育成に注力している点が特徴的でした。子どもの居場所づくりだったり、表現を通して生きる力を育むこと、もちろん将来的には演劇のプロを目指すというキャリアの観点もあります。浦添市の文化課の方が、苦しいときにここにきて大声出して、演劇で得たことを思い出して欲しいと言っていたのが印象にのこっています。

平良:『創作エイサー那覇太鼓』の与那覇仁さんのように、自主的な活動から公民館の活動に対して関心を寄せていく方もいます。与那覇さんは、沖縄の文化を伝えたいといろんな活動をされており、エイサーもそのひとつとして活動しておられるようです。あるとき、知的と身体の障害をもった方がメンバーに参加したことから、エイサーの取り組みに変化がみえてきたといいます。このサークルの特徴は、自分たちで振り付けを考え、みんなでお互いに教えあうというところにあるそうですが、振りを教えあうときに、障がいのある子には他の子と同じように教えても教えられない、伝わらないというので、子どもたち自身でどうすればよいか考える場面が出てきたんだそう。そのやりとりをみていた大人たちも子どもたちの姿に考えさせられ、それで子どもの健全育成に目をむけるようになったと言います。
29歳になったという彼は、小禄南公民館の利用団体連絡協議会会長もしていて、公民館に新規利用者を増やしていきたいという希望をもっています。新規利用者に増えてもらいたい反面、利用者が増えすぎると自分たちの使える時間が限られてしまうかもしれないというジレンマを抱えながら、どうすればいいかと悩んでおられました。空いている時間を活用する方法など、利用者自らが深く公民館のあり方について考えておられる姿に驚きましたし、頼もしく感じました。

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問われるコーディネート能力

宮城潤(以下、宮城):小禄南公民館の那覇太鼓の例は、サークルが社会の多様性を学ぶ場にもなっているということだと思います。サークル活動で経験したことや学びを、地域に還元しようとしています。
インタビューからも読み取れるし、サークル活動のながれをみていてもわかるように自治会、婦人会、青年会といった地域団体と密接にかかわっている人がサークル活動にもかかわっている例は多くみられます。同時に、地域や地縁の組織で集まっているのではなく、テーマ型の趣味的なコミュニティもあります。そういった多様な背景をもったサークル同士が、公民館を通してお互いに相談しあえる関係ができないかと考えています。公民館でサークル活動を行う意味はそういうところにあるのではないでしょうか。サークル活動をする方々にもコミュニティや仲間づくりという意識をもってもらいたいし、自分たちの活動がどのように社会につながっているのかを考えてもらいたい。サークル同士が互いに別々に存在しているんじゃなくて、うまくつながっていければ、幅広く豊かなものになっていく。それらをどうすればうまくつなげられるか、そこが課題です。

平良:公民館とサークルの関係性はインタビューで聞くことができましたが、サークル同士の関わりは聞けませんでした。ですが、地域で活動する者同士が公民館で顔を合わせること、ささやかなことだけれどそういう関係がうまれるのが公民館の
特徴だというお話を宮古島市中央公民館で活動している『フロイデ混成合唱団』の下地さんもしておられました。

村上:サークルを続けるモチベーションはなにか、公民館で活動する意味はなんな
のかを、インタビューを読みながら考えていました。たしかに、公民館を安く利用できるのは理由として大きいでしょう。では、公民館が安く利用できるのはなぜか。利用者のみなさまにその意味を考えてもらうことも大切ですし、公民館も伝える努力をしていかなければなりません。そうしなければ公民館は単なる安上がりの部屋貸し場に成り下がってしまいます。サークル発表の場を公民館が斡旋したり、つくったりするのは、利用者にとってもありがたいことだと思います。自己実現の場となったり、達成感を得られる機会になったりして、そのことがサークルを続けるモチベーションにもつながってくると思います。こういった活動は社会貢献とか社会還元につながりますので、それがひいては公民館で活動する意味につながっていくのではないでしょう。

宮城:公民館職員のコーディネート能力が問われているのだと思います。利用者に、安く使えるのは税金だから社会還元してくれというと、どうしても窮屈になってしまいます。たとえば、老人福祉施設に慰問活動をしているサークルがあるように、公民館の側が地域のニーズを把握して、必要とされるところにうまくつなげていく。
毎週慰問に行ってくださいといわれると負担ですが、それが年数回なら無理なくできると思いますし、感謝されたり喜ばれるとモチベーションにもつながります。

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これからの公民館のすがた

宮城:広域をカバーする都市部では、公民館を日常的に利用する人は住民の数パーセント程度だといわれています。公民館の存在を知っていても来たことがない、公民館でなにが行われているのかわからないと言う人はたくさんいます。本来的に居場所を必要としていても、うまく場とつながれない人たちもいます。多様な人たちが足を運べる場になればいい。正直、いまは偏りがあると思います。
公民館の本来的な機能それは、地域課題や生活課題に対して、お互いに学びあいながら活動を通して解決していくということです。現状は、その課題さえも限定的にとらえられているように思います。
今回のサークル利用者のインタビューは、たくさんの課題解決に向けたヒントがつまっています。生きがいづくりや居場所づくりのほか、子どもと大人、障がいをもった人たちといった多様な人をつなぐ結節点にもなっている。そういった実際に起こっていることを自覚していければ、もっと公民館の存在が生きてくると思います。
県内の公民館が連携、共有しながら取り組むことによって、それぞれの活動がイキイキと輝き出し「沖縄の公民館はおもしろいよ」と言われるようになればと願ってこの事業をやっています。

村上:沖縄は、生活困窮世帯が多いという報道をよく目にします。公民館はビジネスではアクセスしづらい層に対して、他の行政部署とは異なる方法でコミットできるポテンシャルの高さを持っています。公民館の側が意識して働きかけるようにす
ることで、公民館が居場所になりうるということを伝えることができるはずです。
これからの公民館は、そこで仕事を作り出していけるような役割も求められていくでしょう。コミュニティビジネスであったり、なにか新しい出来事を起こしていきたいと思う人たちの実現の場になっていけるようになれば、さらにおもしろい展開がうまれてくると思います。
いまの公民館は趣味的な面が強いですが、新しいことを学び仕事をうみだし、くらしにつなげていくこと、それが本来の公民館の役割なのです。

以上

2016年2月6日 那覇市若狭公民館にて
座談会:村上英己(公益社団法人全国公民館連合会事務局次長)
宮城潤(NPO法人地域サポートわかさ理事/那覇市若狭公民館館長)
平良亜弥(NPO法人地域サポートわかさ「公民館を拠点とした芸術文化発信事業」
調査員/インタビュー担当)
鳥越一枝(NPO法人地域サポートわかさ「公民館を拠点とした芸術文化発信事業」
調査員/インタビュー担当)
文責:樋口貞幸(NPO法人アートNPOリンク)