那覇市石嶺公民館
家庭教育学級『ペアレント・トレーニング』

発達障害の子どもをもつ親を対象にした『ペアレント・トレーニング』。発達障害といってもその障害特性のあらわれ方は子どもによってさまざま。発達が気になる子どもの特性を理解するための取り組みを紹介する。

講座名:石嶺公民館20周年記念事業『子どもの発達に飛び級はない!家庭教育学級 第3弾ペアレントトレーニング』
対象:発達障害や発達が気になる子どもを持つ親
目的:発達の特性に応じた対応を学ぶ『ペアレント・トレーニング』で、保護者の精神的自立を図る。
特徴1:「ピアサポート」を通じて、子どもの発達特性に応じた対応を学び、実践することで親子間のよりよいコミュニケーションを図る。
特徴2:敷居が高い障害福祉としてではなく、徒歩圏内にある公民館での支援。
アピールポイント:「在りのまま」の子どもを受容し、子育てに対する親として価値観や軸づくりを目指す。「力強く柔軟で賢い親」をつくる「ペアレントメンター」の重要性に着目。

石嶺公民館では、発達障害や発達が気になる子どもをもつ親を対象にした『ペアレント・トレーニング』に取組んでいる。ひとことで発達障害といってもその障害特性は子どもによってさまざま。子どもの特性を見極め、親子がよりよいコミュニケーションで日常を穏やかに過ごすことで子育てに対する自信を深める。
本来、障害福祉の専門機関の事業である『ペアレント・トレーニング』だが、そこにたどり着けない親の悩みも垣間見える。公民館の特徴である誰でも通える身近さを活かし、発達の気になる子どもを持つ親どうしが対話する「ピアサポート」を通じた支援について、ペアレントメンターでもある石嶺公民館職員の新垣道代さんにお話を伺った。

「ペアレント・トレーニング」とは?
那覇市の1年間の出生数約3300~3400人のうち、毎年約120人程発達が気になる子が、存在することがわかっている。石嶺公民館は、そうした発達が気になる子どもをもつ母親を対象にした『ペアレント・トレーニング』という専門的な支援事業に取組んでいる。
『ペアレント・トレーニング』とは、「親が子どもの特性を理解・分析し、適切な対応をすることで、子どもとの関わり方を楽にする」もの。問題行動には注目せず、好ましい行動、今できている行動に注目し、褒めながら親としての心構えや受容心を高めていくということだ。
石嶺公民館では、11回に渡るペアレント・トレーニングを実施した。こうした取り組みは障害福祉の管轄であるが、現在では、診断名がない方も気楽に受講できるようにと、母子保健の管轄で「ペアレントプログラム」も存在する。だがそのことが知らされず、支援や情報が行き届かない現実がある。また、専門機関に対して敷居の高さを感じている方や、我が子の障害を受け入れ難い親にとって障害福祉や母子保健の専門機関は心理的に遠い。そこで、石嶺公民館では保育園未就学児や幼児、学童期の発達が気になる子を持つ親を対象に講座を開講した。今回受講した6名は、支援センターの職員からの紹介や保護者同士で声を掛け合って参加したため、講座の始まりは積極的ではなかった。それでも地域に根ざし、自主的なサークル活動が盛んに行なわれている公民館は、その施設のもつ性格上、通う側にとって心理的な負担が少ない。ここに公民館のポテンシャルがあるといえよう。担当の新垣氏は「普段気軽に使える公民館、日常生活の中で特別な教育プログラムに参加できることも狙いです」と語る。

ピアサポートで自助活動

石嶺公民館で開講しているペアレント・トレーニング事業は、ピアサポートの方法を取っていることが特徴的だ。また、琉球大学医学部保健学科小児看護学教室の研究事業とも連携し、講座の初回に、①自己効力感測定、②ラザラス式ストレスコーピングインベントリー(*1)、③育児ストレスの測定を実施。親の内的変容を見て、科学的な見地から課題解決に向けたアプローチを試みている。今回の参加者は、公民館を利用するみどり子育て支援センター「なんくる家(みどり保育園内)」の「語やびら~(*2)」の保護者。支援センターの活用対象者から外れた場合、今後の居場所が気になる保護者に声掛けをして参加者を募った。ピアサポートというのは、同じような子をもつ親どうしが子どもの状況や子育てについて語り合ったり、子どもの観察を経て「お互いに気づいたところを言い合う場」。ああしなさい、こう育てなさいと指示をする/指示を受けるのではなく、「自分で我が子の特徴をつかみとること、気づくこと」を促すところに力点が置かれている。ペアレント・トレーニングは親の子育ての見直しという側面もあることから、子どもの年齢がまだ低いうちの方が効果が高いとされる。だが、障害受容に踏み切れない想いとは別に、兄弟児に対する悩みや、家族間にある障害受容の違いなど、複雑な心情が支援に辿り着くことを遅らせるケースもある。
いまの社会的な流れでは「早期発見、早期支援、子どもの特性を理解しましょう」というものだが、それでもまだまだ認知度は低い。その一方で、ペアレント・トレーニングの「我が子受容」「子どもの特性にあった対応を学ぶ」という基本的な考え方が伝わらず、発達障害の障害名にとらわれ過ぎたり、障害特性の問題行動に注目し過ぎる傾向がある。障害に関係なく本来の「子どもひとりひとりを捉える」という、子育ての大切な部分を失いかねない現状もみられる。「情緒的社会的発達の凸凹(*3)から起こる問題行動なのか、あるいは定型発達の年齢的な誰にでも起こりうる問題行動なのか、家庭環境が要因なのか、そういった発達の見極めこそが子育ての醍醐味」と語る新垣氏。「障害だからこれができない、だから配慮をお願いします」という安易な策に溺れてしまいかねないことを常に意識し、啓発しているという。

ペアレントメンターについて

ペアレント・トレーニングの受講によって、親と子の関わり方もさることながら、子どもが変わったという結果がうまれているという。そのワークの中身を簡単にみてみたい。
たとえば、初回は「好ましい行動/好ましくない行動」について書き出し、ロールプレイで子どもになって演じることで、どう対応すれば良かったかを考えていく。何度言っても止めないというところに障害特性が関わっているとすれば、その子どもがもっている難しいといわれる特性に対してどのように着目するかの助言や、上手な気の逸らし方をアドバイスしていくもの。ペアレントメンターの体験を見聞きし、参加者は徐々に精神的に自立出来るようになる。
こうしたワークの効果を最大限に引き出すために、今後力を入れていきたいのは「ペアレントメンター」の育成だ。ペアレントメンターは、支援の必要な子を持つ親で当事者でもある。先にもあるように障害特性やスキルを専門的に勉強することによって、「この子にはこうしてもらわなければいけない」と過度な要求行動が目につくようになる。対応としては正しく合理的配慮は必要だが、他方で心の葛藤や臨機応変さが弱くなってしまう。ここで進めているのは、「子のもっている健常な部分の力を引き上げて、合意形成ができる子にしていく」ということ。社会のなかで生きていける子にするために「賢い親になろう」「力強い親をつくる」を心がけている。ペアレント・トレーニングの中身をワークと理念の双方から充実していくためにも、ペアレントメンターをここからつくっていけないかと考えている。

(*1)ラザルスのストレス対処理論をオリジナルに、日本語版で標準化した最新のストレステスト
(*2)特別な配慮、支援を必要としている子を持つ親の情報交換会
(*3)情緒的社会的発達において、認知(知覚・理解・記憶・推論・問題解決などの知的活動)の能力の高い部分と低い部分の差が大きい人のことをさす。 この発達凸凹に適応障がいが加わることによって、狭義の発達障害と説明されている。
那覇市石嶺公民館
〒903-0804 沖縄県那覇市首里石嶺町2丁目70−9
TEL.098-917-3447 / FAX.098-835―5102

取材協力:新垣道代(那覇市石嶺公民館 )
文責:佐藤純子(NPO法人地域サポートわかさ)
取材日:2016年11月11日