7月25日に『生きる力を育むために〜アートがもたらす教育の広がりとその可能性』を開催しました。
今回のトークイベントは、学校と連携したアートワークショップ型授業を実践する県内外の事例に学び、アートによる子どもの主体的な学びと学校教育と社会教育の連携による総合的な学びについて参加者とともに考えることを目的としています。
当日は、県内外・海外から約34名の参加があり、こども園の先生や高校教員、大学教授などの教育関係者、自治体の職員や社会教育関係者、アート団体などなど、幅広い職業の方が参加してくださいました。
プログラムと登壇者は、こちらです。
3時間という長丁場のトークイベントでしたが、最後までご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
今回は、動画アーカイブとして掲載しませんが、参加できなかった方々にも聞いていただきたい内容なので、当日のお話を要約してまとめてみますので、少々長くなりますが最後までお付き合いください。
基調報告:堤康彦(NPO法人芸術家とこどもたち代表)
⬛︎ ASIAS(Artist’s Studio In a School)とは
NPO法人芸術家と子どもたちが開発した「ASIAS(Artist’s Studio In a School) 」についての概要を紹介し、映像を交えてプログラムを報告しました。ASIASは、企業や財団・自治体などの協力を得てアーティストを学校や幼稚園などを橋渡しする取り組みで、今年で22年目となる取り組みです。ASIASの特徴は、ワークショップであること、芸術家と担当教育との共同作業による授業づくり、コンテンポラリーのアーテイストを起用、とくに身体にアプローチできるような内容。
⬛︎ワークショップを体験した子どもたちへの影響
①想像する力・想像的に考える力
②コミュニケーション能力・他者と関係する力
③物事にチャレンジする力・前向きに取り組む力
④変化に対応する力・変化を起こす力
また、子どもにとって日常的な時間と場所を大切にしており、さまざまな家庭環境の子どもたちが参加している学校の授業に参加することで、厳しい家庭環境の子どももアーティストに出会える機会となる。障害のある子や発達障害傾向にある子、普段の授業では活躍することがない子がASIASのワークショップで活躍する傾向がみられた。
⬛︎今後の展開
子ども食堂、ファミリーフォーム、母子生活支援施設、少年院、自動自立支援施設、小児病院、養育過程などの子どもたちにも活動を展開させていきたいと考えている。
⬛︎最後に
東京都は学校の数が多く、沖縄とは地域性が違うと思うは、継続していくことで、アーティストのワークショップが大事だという応援してくれる先生が増えてきているので、ネットワークを大切にしていきたい。
事例報告:知花幸美(YUKIMIバレエ・コンテンポラ・スクエア主宰)
⬛︎学校でのダンス授業
県内でダンスの授業を行ってきたが、リズムダンス的なステップや既存の動きを教えるではなく、身近に見聞きして体験したことをどう感じ、想い、考えたかを身体をつか使ってダンスにしていく創造性を軸にしたダンスの授業を行っている。体育、総合学習、音楽、おもしろいところでは国語を授業がダンスの授業にあてられている。
⬛︎学校の要望
人前に出ることや自己表現することがはずかしい、ダサいという気持ちが出てくるので、そういう気持ちをなくしたいという先生方の申し込みの理由が多い。
⬛︎特徴的な事例
普段は、おとなしくて無口、授業では発言しないという子どもが、3日間のワークショップのうち、2日目3日目とワークが進むうちに、目が輝いていくということがあった。先生たちが子どもの新たな一面に一番驚く。
⬛︎WSを体験した子どもたちの感想
ある女の子がワークの中で、友達の体が私とは違う、人の体はこんなに違う、それでもその中で動きをつくっていくことが面白いとおもったし、それが大事だと思ったという声。普段みられる体の形や表情とちがってとてもおもしろかったという感想が印象に残っている。4年生で自分と他人の体の違いを実感し、その違いを考えるという体験になっていた。
⬛︎最後に
昨年はコロナで中止する学校が多く、実施が県内は1校のみだが、今年は4校を訪問する。
日常の子どもたちにダンスを通して何を示せるか考えていた。体は嘘をつかないというのが長年の結論があり、その体から、みんながいろんなことを汲み取って考えていく、成長していく姿を学校のワークの中で感じ取れることができる。最近は、継続することに意義があるのではないかとも思い始めている。地域の公民館がこういうことに乗り出して、継続的に教育にアートを取り入れていくことはとても意義があることだと思う。
事例報告:喜舎場梓(株式会社TEAM SPOT JUMBLE制作)
⬛︎TEAM SPOT JUMBLEとは
沖縄で活動している劇団、CMやドラマ、映画など、役者として活動している。NPO法人パブリックの学校でのワークショップを協力することでスキルを学んだ。現在は、文化庁の補助金を得ながら、コミュニケーションを重視した演劇ワークショップに取り組んでいる。
⬛︎演劇ワークショップとは
役者を育てることが目的ではなく、演劇を使ってコミュニケーション促すをすようなゲーム。ゲーム形式のアイスブレイクののち、演劇を創作する。ファシリテーターは役者。教えるという立ち位置ではなく、参加者が自分で気づいて学べることをサポートしている。ワークショップの進行はするが、演劇の指導や演出をすることはなく子どもたちと一緒につくっていく。その後、振り返りディスカッションをする。
⬛︎学校との連携
学校の課題やめあてにそって活動をつくるよう心がけている。沖縄市の教育委員会と協働、先生たちとヒアリングをするなかで、先生たちのやりたいことと擦り合わせていきながらプログラムをつくっていく。総合や国語の単元や道徳、平和教育うあ人権をテーマにした例もある。先生たちからのフィードバックの機会も設定することで、先生たちが子どもたちの意外性や発見、ふだんと違う様子に気づく機会ともなっている。
⬛︎子どもたちや先生の反応
小学校4年ぐらいから2年間不登校の子が参加し、WSに参加したことがきっかけで卒業式まで登校できたということもあった。子どもの変化に立ち会うことができ、私たち(先生)の勉強にもなっている。
自閉症の児童や場面緘黙のある児童とのクラスメイトの関係が変化したり、高校生の向き合い方の変化もみられるようになった。
事例報告:宮城潤(NPO法人地域サポートわかさ)
⬛︎アートな部活動とは
アーティストを顧問に招き、創造的でユニークな活動を通して、地域のあらゆる人が関与できる仕組みの構築、新たな人的交流を生み出すことを目的とした活動。
ウィズコロナ時代における、新しい地域コミュニティをつくる、アートの創造性を生かした社会教育プログラムを開発しようとしている。コロナ禍はより社会の弱いところを顕在化させ、生活に影響のあったひと、ないひとの分断が生じた。コミュニティの重要性の再認識やボランタリーなひとびとが顕在化してきた。その中で4つの部活動を展開することになった。
⬛︎ダンボール部
顧問は、県内の現代アーティストである儀間朝龍(ぎま・ともたつ)さん。地域の商店や酒屋から集めた廃ダンボールを使って、ノートやレターセット、ステッカーなど新しいモノを生み出します。地域で海岸清掃をしている地球ハートクラブの子どもたちとも連携して、地球環境について考えながら活動する。
⬛︎ユーチュー部
顧問は、東京都で活動する映像クリエイターである藤井光(ふじい・ひかる)さん。在留外国人をはじめとする地域住民の生活目線で撮影したまちを映像で紹介し、那覇市の魅力を発信するとともに多様な背景を持った隣人の存在を伝えることを目的とした部活。顧問は、東京からオンラインで参加している。
⬛︎ポストポスト部
顧問は、県内の活躍する平良亜弥(たいら・あや)さん。地域に設置したポストに投函される様々なモノ(手紙、絵、詩、作品など)に対して、どんな変化が生み出せるかを考え、部員で話し合いながらお返事します。ポストに投函したことで、小さな変化を楽しみ味わうことを目的にした部活。
⬛︎アート同好会
他の3つの部活動と連動し、それぞれの取り組みを言語化していくプロジェクト。アート鑑賞を通じて批判的思考を育むと同時に、主体的に“観る”ことにの意味について考えていく。アニメやマンガ、身近なポップカルチャーから、現代アートの世界的な動向までアート同好会ならではの幅広い視点でアートを一緒に読み解いていく。
後半は、パネルディスカッション「生きる力を育むために〜アートと学校と公民館の連携から」です。
パネリストは、前半で登壇してくださった4名(堤康彦、知花幸美、喜舎場梓、宮城潤)、コメンテーターに東京大学大学院教育学研究科教授の牧野 篤さん、司会にキャリア教育コーディネーター翁長有希さんをお招きし進行していきました。
後半は、今回大きなテーマとして掲げている『生きる力』についてディスカッションしました。
『生きる力』を育むためのアートとは、一体何なのか?何から何までがアートなのか、そもそもなぜアートなのか、といった話から、学校教育とどのように連携したらいいのか、今後はどのような教育が求められているのかなどについてもお話しました。
時代がどんどん変化し、学校現場も変化していかなければならない段階にきていますが、私たち世代が誰も経験がないことなのでみんなが模索しながら進めています。そこで、“答え”や“再現性”のないアートがより力を発揮するということをこのディスカッションで再確認することができたかと思います。
あっという間の3時間で、現場で活動している方々だからこそ見えるアートの可能性を伺うことができ、いま私たちが取り組んでいる『アートな部活動』の意義を感じました。
お忙しい中ご登壇いただいた皆さまに大変感謝いたします。
トークイベントの参加者からも感想いただいているので、ちょこっとだけ紹介して終わります。
最後まで読んでくださった皆さま、ありがとうございました。
参加者の感想
「参加者からの感想の中には、社会で生きる力を学ぶ手段の一つとして、アートがもたらす可能性に期待が持てました。新しい自分を見つけることが出来たら、子供達が、将来、夢を実現して生き生きと楽しく暮らす事が出来るといいですね。関わって行きたいと思いました。」
「学校関係者です。私も正解のない問いは、学校に必要なアートの力だと思います。しかし、「正解」慣れすぎた学校では、正解が見えない問いに対して、生徒は「無理」と感じてしまします。子供たちの自信はリアルな世界では築かれにくく、スマホの中の自分を自信のある自分に置き換えてしまいます。宮城さんがおっしゃっていたように、学校だけでは難しい現実があり、社会との関わりが必要ですが、理想として、学校外でアートと関わるだけではなく、公教育の学校の中で、正解のない問いに向かえるアートができる余裕が必要だと感じます。時数や社会の理解には課題がありますが、スモールステップアップで、私自身がより授業の中で社会とつながりをもっていきたいと思います。」
「学びのある時間をありがとうございます。学校教育の中で大人とこともが評価する人と評価される人という関係性になってしまいがちであると思います。アートに答えはないという点で評価という枠組みを超えていけると思います。答えのない活動が学校現場には必要だなと感じました。」
主催:NPO法人地域サポートわかさ
「アーティストと開発する社会教育プログラム」
支援:沖縄県、公益財団法人沖縄県文化振興会
「令和3年度沖縄文化芸術を支える環境形成推進事業」